
「死」の内実に迫る
人生には、できれば避けて通りたいものってありますよね。試験で悪い点数をとるとか、失恋するとか、人前で大恥をかくような失敗をするとか……。この世には、それらをすべて避けて通ってきたなんていうラッキーな人もいるかもしれません。でも、だれだって、絶対に避けては通れないものがあります。それが「死」です。
考えるだけでも恐ろしい死を、なんとか遠ざけておきたいと思うのは当然の心理でしょう。しかし、目をつぶり、意識しないようにすればするほど、恐ろしさもまた募る……。それが人間というものなのかもしれません。ならばいっそ、しっかり見つめて、仲良くなるというのはどうでしょう。
はるか昔から、世界中で人々が死をどのようにとらえ、どのように対処してきたかを微に入り細に入り知ろうというのが本書の目的です。おどろいたり、あきれたり、感心したりしているうちに、きっとあなたにとっても、死は身近なものになっているはずです。
その項目はといえば、たとえばこんな風。安全棺、科学捜査、降霊術、死神、死の舞踏、臓器提供、罪食い、プラスティネーション、ホスピス、よみがえり、臨死体験……。どうです、いったいどんなことが書かれているのか、知りたくありませんか?
正直いって、訳すのはたいへんでした。なにせ、宗教学に神話学、人類学、民俗学に哲学、心理学、考古学や美術史もあれば、最新の科学の出番もあります。そうした広範なジャンルにちりばめられた英知を、手さぐりしながら翻訳しなければならないのですから。でも、その分、達成感も大きく、いまではすこしでもたくさんの人に読んでもらいたい気持ちでいっぱいです。
あくまでも百科事典なので、どこから読んでもらってもかまいません。ときどき開いてはぱらぱらとめくり、目に留まった項目をひとつ読んでみるっていうのはどうでしょう。そうやって全部の項目に目を通し終わる頃には、あなたも確実に「死」に近づいていることでしょう。
(ちば・しげき)●既訳書にJ・ランフォード『グーテンベルクのふしぎな機械』、G・ラロッシュ『こんな家にすんでたら』など。
あすなろ書房
『「死」の百科事典』
デボラ・ノイス・著
千葉茂樹・訳
荒俣 宏・監修
本体2,800円