日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私がつくった本31
鈴木出版 鈴木春香

(月刊「こどもの本」2011年12月号より)
ぼくとソラ

『ぼくとソラ』
そうまこうへい/作
浅沼とおる/絵
2011年9月

 鈴木出版では絵本の原案を持ち込みたいという方からご連絡をいただくと、なるべく会うようにしています。絵本作家を目指している新人さんやイラストレーターさん、童話を書き始めた方など老若男女、たくさんやってくるのですが、絵本化にこぎつける人はほとんどいません。絵本の持ち込みが出版されることはとても難しいのです。

 しかし、今回ご紹介する『ぼくとソラ』は、作者のそうまこうへい先生から持ち込んでいただいたお話です。そうま先生はご自身でもイラストを描かれ、絵本も多数出版されています。『ぼくとソラ』も、最初はそうま先生のイラスト付きのラフで見せてくださいました。そうま先生が実際に飼われていた愛犬をモデルにしたお話です。第一印象は、飾らない言葉と老犬に対する子どものやさしいまなざしがとてもいいなと思いました。編集長と相談して、早速、絵本にすることになりました。

 絵本を作っていくなかでひとつ気になることがでてきました。この絵本は、前半に元気なソラが、後半に弱ったソラが出てくるのですが、ソラの14歳という年齢は一貫して変わりません。絵本の中のソラは14歳のおじいちゃん犬で、元気な日もあれば、老いのため〝ぼく〟の言うことに従えない日もある、という設定なのですが、前半が幼い日の元気なソラと読まれてしまわないかという心配がありました。終始老犬であるという設定を読者にきちんと読みとってもらわないと、この絵本の伝えたいことがうやむやになってしまいます。

 そこで、そうま先生にご相談して、前半と後半をつなぐ文章をわかりやすく直していただき、画家の方にはソラの表情などに差をつけてもらうことになりました。

 画家の方はそうま先生たってのご希望で、浅沼とおる先生に決まりました。浅沼先生とはまず、どんな種類の犬にするか話し合いました。今はペットブームで外国の犬種も流行っていますが、日本人が一番親しみのある柴犬をモデルにすることにしました。出来上がったソラの絵を見て、何とも言えない哀愁を感じ、浅沼先生にお願いしてよかった!と思いました。前半と後半の差も背景の色やソラのしぐさ、表情を変えることで分かりやすく表現してくださいました。

「老い」という子どもには難しいテーマを取り上げた絵本ですが、主人公の〝ぼく〟の語りかけるような文章とあたたかみのある絵で、心にすとんと入ってくる作品になりました。老いることは悲しいことかもしれませんが、〝ぼく〟とソラのような関係だったら、年を重ねることもいいもんだなと思えてきます。この絵本をきっかけに老いることに対してやさしい気持ちを持ってもらえたらうれしいです。