日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『ずっとまっていると』 大久保雨咲

(月刊「こどもの本」2011年12月号より)
大久保雨咲さん

あの子を待ちながら

 記憶力はそれほどいい方ではありませんが、小さい頃に誰かを待っていた時の記憶というのは、なぜだか鮮明に覚えています。

 公園で友達を待っていた時に吹いていた風の感じとか、退屈しのぎに地面に落書きをした時の土の手触りとか、目を細めるくらいに眩しかった日差しとか。そういったものまでもが、誰かを待っていた時の感覚として、妙にはっきりと記憶に刻まれています。

 遊んでいる時間はあっという間に過ぎてしまうのに、友達が来るのを今か今かと待ちわびている、あの時間の長いことといったら。

 喫茶店で知り合いが来るのを待ちながら、ふとそんなことを思い出した時に、ああ、そうだ、「誰かを待つ」ということを書こう、と思いました。たとえば、約束の場所で、友達が来るまでの十分間。このほんの短い時間を物語にしてみたい。早く友達に会いたくて、いてもたってもいられなかった、あの永遠にも思える待ち時間を書いてみたい。できれば、丁寧に、じっくりと。それが、この作品を書くきっかけでした。

『ずっとまっていると』は、タイトルのとおり、最初から最後までずーっと待っているお話です。六十四ページもあるのに、場面すら変わりません。変わるのは主人公の女の子の頭の中。なかなかやって来ない友達を約束の場所でじっと待ちながら、いらいらしたり、心細くなったり、そうかと思うと、急に楽しくなったり。女の子の気持ちは、くるくると変化して大忙しです。

 物語に登場するカエルが言います。

「まあまあ、ゆるりとまちましょう」

 この本を手にとってくれた方が、ほんの束の間、女の子と一緒にのんびりと「待つ」ことを楽しんでくれたなら、うれしいです。

 大人も子どもも忙しい毎日に、「待ち時間」なんて一見無駄なようにも思えます。でも、まだやって来ない誰かさんに想いを馳せて待つこと。これって実は、すごく贅沢で豊かな時間なのかもしれません。

(おおくぼ・うさぎ)●本書が初の著作。

「ずっとまっていると」
そうえん社
『ずっとまっていると』
大久保雨咲・さく 高橋和枝・え
本体1,200円