
理解し合うことの大切さ
中国から来日して十八年、現在大学で教鞭を執っている私(社会心理学が専門)が、まさか子どもの絵本を翻訳するとは思いませんでした。ポプラ社の方から、中国で出版されている絵本『悟空、乖!』(中国上海国際童書展〈金風車〉賞受賞)を、「日本の子どもたちに紹介したいので、翻訳をしてくれませんか」との依頼が来たとき、正直驚きました。しかし、この作品を何回か読むうちに、その内容に興味が湧き、また娘の幼少期にたくさんの読み聞かせをした経験もあって、楽しみながら翻訳しました。
悟空がこの作品の主人公です。中国でも日本でも、孫悟空を知らない人はほとんどいないでしょう。私も子どものときに、「西遊記」のアニメドラマや絵本などをよく読んでいました。元気で明るく、朗らかな性格である悟空は誰にも好かれています。
ところが、この絵本の最初のページをめくって、まず目を奪われるのは、悩んでいる悟空のすがたです。「へんだなぁ、どうしてみんな、ぼくとあそんでくれないんだろう?」 そこから、悩み、逃避、気づき、分かち合い……悟空をめぐって学校での一連の出来事が展開されていきます。
コミュニケーションを専門に研究する立場からいえば、人とのつきあいでは、相手の立場に立ち、相手の気持ちを理解し、感情を分かち合うことがとても大事です。けれども、実際には、なかなかそのようにいかない場合が多い。子どもたちの間でも、友達が離れたり、あそんでくれなかったりする、ということは少なくないでしょう。子どもたちばかりでなく、日頃つきあいのある大学の学生達の中にも、そうした友達関係の悩みを抱えている者は多いのです。
悟空は、ウサギのヘイヘイの言動を通じて自分を外から見る視点を獲得し、なぜ友達に敬遠されてしまったのか、その理由に気づきます。コミュニケーションにとって大切な問題が描かれている、向華さん・馬玉さんのこの絵本を、小さなお子さんといっしょに楽しく読んでいただけたらと思います。
(し けいえい)●本書が初めての訳書。
ポプラ社
『悟空、やっぱりきみがすき!』
向 華・作
馬 玉・絵
施 桂栄・訳
本体1,500円