日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『3・11で僕らは変わったか』 もんじゅ君

(月刊「こどもの本」2014年7月号より)
もんじゅ君

震災後を生きるヒントを探して

 この本は、震災と原発事故以降、ずっと心にひっかかっている「モヤモヤ」に形を与えたくてつくったものです。

 僕がひとりで語るよりも他の方にお話を聞きながら考えを深めていくのがよいのではないかと、美術家の奈良美智さん、音楽家の坂本龍一さん、武術研究家の甲野善紀さん、写真家の鈴木心さん、そして哲学者の國分功一郎さんとの対談集としました。みなさん、それぞれの専門領域を究めるプロであり、また3・11以降に印象的な発言やアクションをされている方たちです。

 テーマも幅広く、芸術論や身体論から福島の現在やエネルギー問題、そしてこれからの民主主義のありようについてまで、幅広く話しあっています。

 僕自身、被災もしていないのにこんなことをいうのははばかられるのですが、あの日以来、どんなに笑っていてもぼんやりしていても、突然ハッと墨を呑んだような暗い気持ちになる瞬間があります。「復興」「絆」といった言葉が、まるで透明なスローガンのように聞こえてしまうこともありました。

 大災害をきっかけに、いろんな大事なものに気がついたつもりだったのに、実はなにも変わっていないんじゃないか。このまま忘れたら、また失敗をくり返すんじゃないか。時間が経つにつれてよのなかは平熱に戻り、それとともに焦りが大きくなっていきます。

 対談原稿を何度もまとめ直すのは、震災以降に抱いてきた切れぎれの発見や疑問を互いにつなぎあわせる作業でした。夜空の星を結ぶと星座が浮かび上がるように、思いもかけない考えのかけら同士が結びつくことがあります。

 これまで書いてきたのは『おしえて! もんじゅ君』『みんなの未来のエネルギー』など、エネルギー問題を解説する情報本でした。けれどこの本では「震災後を生きるヒント」というと大げさですが、僕らがいまどこにいて、どこへいってしまうのか、どうすれば自分たちの意志で進路をとることができるのかについて書いたつもりです。読んで下さった方の心のモヤモヤに少しでも形を与えるお手伝いができたら、なによりうれしく思います。

(もんじゅくん)●既刊に『おしえて! もんじゅ君』『さようなら、もんじゅ君』など。

「もんじゅ君対談集 3・11で僕らは変わったか」
平凡社
『もんじゅ君対談集
3・11で僕らは変わったか』
もんじゅ君・著 本体1,600円