日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『闇のダイヤモンド』 武富博子

(月刊「こどもの本」2011年10月号より)
武富博子さん

“異なる文化に出会う” ということ

 一度だけ、アフリカのサハラ以南の国から日本を訪れた人たちと接したことがあります。そのときの印象は強烈でした。時間感覚や行動様式、食べ物の嗜好の違いなど、驚くことばかりでした。「日本は歩いていても足がよごれないね。服を洗わなくても平気だね」とにこにこ話してくれた若い男性や、「子どもは八人くらい産まないと。死んだらどうするの」と忠告してくれた、三十代前半とは思えない貫禄のあるお母さん(彼女はちゃんと八人産んでいました)の言葉を、十年以上たった今でもはっきり覚えています。

 一方で、子どもの頃にアメリカのニューヨーク州郊外に暮らし、コネティカット州の学校に通っていたことがあります。スクールバスでまわる生徒たちの家の大きくて立派なこと! それに比べて小ぶりだった我が家に遊びにきた友人は、日本の家がもっと狭いと聞くと、びっくりしたようでした。彼女のお母さんは、ひとりっ子だった私のことを気にかけて、子猫をプレゼントしてくれました。

 さて、YA向けミステリーの『闇のダイヤモンド』は、最後まで読まずにはいられないサスペンス性のある作品で、内戦から逃れてきたアフリカ人一家と、彼らを一時的に家に受け入れる、コネティカット州に暮らすアメリカ人一家の出会いの物語です。難民の受け入れに反対していた高校生の少年ジャレッドと、彼らが来るのを楽しみにしていた妹のモプシーは、やってきた十代の兄妹とその両親に接し、自分たちとの違いにとまどいながらも心を通わせていきます。そこに恐ろしい五人目の難民が関わってくるのですが……。

 この作品に生き生きとしたリアリティがあるのは、作者が実際にアフリカからの難民を受け入れた経験があるからでしょう。翻訳しているとき、登場人物の姿に、アメリカで出会った人や、日本で出会ったアフリカの人のことを、どこかで重ね合わせていました。これまでのさまざまな出会いが、この作品との出会いにつながったように思えてなりません。

(たけとみ・ひろこ)●既訳書にジェイコブソン『バレエなんて、きらい』、アッシャー『13の理由』、グラフ『アニーのかさ』など。

『闇のダイヤモンド』
評論社 
『闇のダイヤモンド』
キャロライン・B・クーニー・作
武富博子・訳
本体1、600円