日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『てるちゃんのかお』 藤井輝明

(月刊「こどもの本」2011年10月号より)
藤井輝明さん

周りとちがうこと それは個性

 私の顔には赤いこぶがあります。二歳の時に発病した海綿状血管腫という病気のためです。このこぶのために小学校一年生の時には、ひどいいじめにあいました。就職活動では五十社受け、ただの一社も内定しませんでした。

 つらい思いはたくさんしてきましたが、いま、こうして自分がいるのは両親の愛があったからです。特に母は助産師・看護師をしていて多忙でしたが、周囲が過保護すぎると心配するほどの愛を注いでくれました。学校でいじめを受けたと知るや、子どもを守れると確信できる学校を探し、編入試験に備えて猛勉強させます。私が成長するにつれて顔のことが心を占めないようにと、次々習い事にも通わせました。平日はすべてスケジュールが埋まっていて「どうして毎日こんなに忙しいんだ!」と思ったほどです。勉強も習い事も母がいつも見守ってくれていました。私の関心が低かったり、怠け癖が出た時には、なんと自分も一緒に習い事に通い出しました。

 転校してからは、いじめは一切ありません。私が仕掛けたけんかの時でさえ、顔のことを言う友人はいませんでした。転校前に、きちんと私と病気のことを話してくれた先生の教育のお陰で、高校卒業までは差別やいじめとは無縁の日々を過ごせました。

 いま、多くの小学校で講演しています。初めはおっかなびっくりな子どもたちですが、私の顔に触ると一瞬で変わります。こわくないことが自分でわかるからです。子どもは大人よりよっぽど受け皿が広くて感覚が自由。異質なものを排除する感覚を持つ前に、知識や理解を得れば、人は先入観なしにあらゆるものを受け入れられるのだと実感しています。だから『運命の顔』をはじめ、大人向けの本はたくさん出してきましたが、子どもが読める絵本を出したいとずっと思っていました。 絵本は大人も読みます。持ちうる限りの愛情を注ぐ親、子どもを思う先生、地域の大人の存在が、どれほど子どもを支えるか、少しでも伝わったらこんなに嬉しいことはありません。

(ふじい・てるあき)●既刊に『運命の顔』『この顔でよかった』『あなたは顔で差別をしますか』など。

『てるちゃんのかお』
金の星社 
『てるちゃんのかお』
藤井輝明・文
亀澤裕也・絵
本体1、300円