日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『じゃんけんのすきな女の子』 松岡享子

(月刊「こどもの本」2013年6月号より)
松岡享子さん

ねこと暮せば

 我が家には目下ねこが二匹いる。ねこというものは、やわらかく、あたたかく、さわると気持ちのいいもので、ひょいと膝に乗ってきてくれたりすると、得をした気分になる。

 ときどき前足をなでたり、肉球をいじったりして遊ぶことがあるが、ねこの足の裏には、人間の手の平に当たる部分からぽつんと離れて、もうひとつ肉球があるのがおもしろい。親指に当たる指も、ほかの四本からだいぶ離れて、ふだんはほとんど毛のなかに埋もれていて、それとわからないのもおもしろい。

 そのことが、なんとはなしに頭にあったに違いない。『じゃんけんのすきな女の子』の中で、突然女の子の前に現れて、じゃんけんを挑む大ねこは、なかなかのしたたか者で、そのかくれて見えないほどの親指を巧妙に使って、女の子をやっつける。

 この大ねこの荒療治(?)のおかげで、いつもうまい具合にじゃんけんに勝ち、何事もじゃんけんで決めるべし、と思いこんでいた女の子は、「世の中には、じゃんけんで決めていいこととわるいことがある。じゃんけんに勝っても負けても、しなきゃならんことはしなきゃならん」ことを納得させられる。

『なぞなぞのすきな女の子』が出版されてまもなく、それとペアになる『じゃんけんのすきな女の子』のお話があればいいなあ、と思ってはいたが、うまくいかず、書きかけて止まったまま何年も経った。もうほとんどそのことも忘れかけていた昨年春、久しぶりの大掃除のとき、書類の山の間から見つかったのが古い茶封筒。その中から出てきたのが書きかけの原稿だった!

 読んでみると、書きだしはわるくない。大ねことのじゃんけん対決まで、まずまず調子よく運んでいる。せっかくここまできているのなら、あと一息。なんとかしたいとがんばって五月五日のこどもの日にめでたく書き上げた。

 我が家のねこは、その後、挿絵のモデルとして、本の完成にひとかたならぬ貢献をしてくれた。感謝感謝。ねこと暮せばいいこともあるというお話。

(まつおか・きょうこ)●既刊に『うれしいさんかなしいさん』『なぞなぞのすきな女の子』、既訳書に「ゆかいなヘンリーくん」シリーズなど。

「じゃんけんのすきな女の子」
学研マーケティング
『じゃんけんのすきな女の子』
松岡享子・さく
大社玲子・え
本体1,100円