日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『あててえなせんせい』 木戸内福美

(月刊「こどもの本」2013年3月号より)
木戸内福美さん

子どもの心に近づきたくて

「子どもの心によりそうにはどうすれば?」と、若いお母さんや、教師や保育士さんに聞かれることがありますが、なかなか納得がいくように話せませんでした。でも、今度聞かれたら、絵本『あててえなせんせい』を親子で読んでみてと言います。

 私の原体験からできた絵本です。本読みを先生に当てられて、本を持って立ったものの手足がふるえて声が出ません。泣きたいのを耐え家に走って帰り、母の顔を見たとたんにわぁわぁ泣きました。母は何も言わず私を抱きしめ背中をなでながら、「なんぼでも泣いたらええ」と言って私が泣き止むまで抱きしめてくれました。充分泣かせてくれたことで、本が読めなかったことを話すことができました。そして母は私の本読みを何度も聞いてくれたのです。次の日の朝、学校に行く時、母はまほうの言葉を言ってくれました。

 そのまほうの言葉は、抱きしめられた母のぬくもりと一緒に、今も私の生きる力になっています。

 小・中・高の学校で読み語りする前に、この体験を話すと、「聞いてやるもんか」と斜に構えてた子までが身を乗り出してきて、なぜか一瞬にして子ども達の心に近づけました。誰もが経験していること、失敗談を聞くことで共感が生まれ、初対面の私を受け入れてくれました。こんな絵本があればいいのにと思い、今回絵本にしました。

 絵を担当してくださった長谷川知子さんが、主人公のくやしさ、どうしょうもない恥ずかしさなど、心の内面をみごとに描いてくださいました。我が子を抱くお母さんの絵も愛があふれています。

 子ども達のEQ(心の知能指数)が気になる今、この絵本をきっかけに学校や家庭が情動学習の場になればと、とんでもないことを、考えています。

 読み語りをした後、「わかるわかる、先生も実はこんな経験あるんだ」なんて言って子どもの心に近づいてくれる校長先生がいたらいいなぁとイメージをふくらませています。

(きどうち・よしみ)●既刊に『洲本八だぬきものがたり』『笑顔のあなたにあいたくて 元・保育士の願い』など。

「あててえなせんせい」
あかね書房
『あててえなせんせい』
木戸内福美・ぶん
長谷川知子・え
本体1,200円