日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『たいせつなことは船が教えてくれる』 藤沢優月

(月刊「こどもの本」2013年3月号より)
藤沢優月さん

「楽しい」って、深いこと。

 書籍『たいせつなことは船が教えてくれる』の取材のため、コンテナ船に乗ったり、フィリピンの大学を取材したり……。

 さまざまな言葉や価値観の人に会いながら、私は「楽しい」ということの深い意味を考えていました。

 なぜなら、笑顔で働いている人々は、本当に楽しそうだったから。


 それは、「苦痛がない仕事がある」という意味ではない。船の仕事は、その仕事が好きではない人にとっては、理解できない世界かもしれません。

 まず、安全第一。そのためクルーには24時間のシフトがある場合があり、深夜でも、仕事の時間帯があります。

「ちょっと気晴らしに……」と思っても陸がない。急にスナック菓子が食べたくなっても、コンビニにも行けない。

 でも。

 クルーは、ある時には、ワイワイと釣り糸をたらして魚を釣ります。休憩時間にさばいて、いちばん新鮮なところをいただきます! わさびやショウガは、チューブのものを積んでおくのです。


 なにもかも限られている船の上。

 そこで学んだ「楽しい」とは、ないものに不平を並べるのではなく、あるものの中で工夫して満足を得ること。

 安全であること。誤解や事故を防ぐために、積極的に声をかけ合うこと。

 時には、真剣に話し合うこと。

 そうやって築かれた安全や真剣さがあるからこそ、ホッとして笑えること。


「『楽しい』ということは、実はとても高度なことではないか?」

 深く深く、さらに深い、自分たちで責任を持って作り出した「楽しい」という状態。そこには、私たちが生きる上でいま、学ぶことが山ほどありそう。

 そんなエッセンスがぎゅっと込められた当書は、海の世界からの、智慧の贈りものに満ちています。

(ふじさわ・ゆづき)●既刊に『夢をかなえる人の手帳術』『未来日記』『「なりたい自分」になる魔法の教科書』など。

「たいせつなことは船が教えてくれる」
金の星社
『たいせつなことは船が教えてくれる』
藤沢優月・著
本体1,400円