日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私がつくった本40
文化出版局 西森知子

(月刊「こどもの本」2012年12月号より)
旅する蝶

『旅する蝶』
新宮 晋/作
2012年5月

 この絵本の作者、新宮晋先生と言えば、国際的に活躍されている高名な芸術家。風や水の自然エネルギーで動く彫刻作品で知られ、作品は日本国内はもちろん、世界中の美術館や公園など公共の場所に設置されています。

 その新宮晋先生から、この絵本のダミーを見せていただいたとき、まず、その美しさに魅せられました。そして先生がメキシコで偶然この蝶に出会ったときのお話を伺い、「ぜひ出版させてください」とお願いしたのが、ちょうど1年前の今頃でした。自然を愛し、動物保護にも関心を持つ新宮先生ならではのテーマです。

 この蝶、オオカバマダラは羽を広げても10センチほどの小さな体で、夏の終わりにカナダや北米からメキシコの森まで、2か月をかけて4000キロもの旅をすることで知られています。そして越冬した後、再び北上します。南下は一世代ですが、北上は、三〜四世代をかけての旅です。世代交代しながらも、毎年同じルートで同じ森に集まるのはなぜなのか、未だに謎が多いオオカバマダラの旅は、生命の神秘そのものです。

 その後、先生から原画の完成の連絡をいただき、お正月休み明け、まさに今年の仕事始めに、兵庫県三田市のアトリエに伺いました。そして楽しみにしていた原画とついに対面。ダミー本もダミーとは言えないほど美しかったのですが、原画の美しさといったら、それはもうすばらしいものでした。表紙の黄色、本文のグリーンとオレンジの鮮やかな色彩。繊細かつ大胆な筆致。うっとりと見入りました。

 打合せを済ませ、絵をお預かりしての帰路は、絵に何かあってはいけないと緊張し通しでした。新幹線の車中でも一度も席を立たずに、ひたすら絵の番人となっていました。

 大切に持ち帰った原画を印刷会社にデータ化してもらい、テキスト原稿と共にデザイナーさんの元へ届けて、レイアウト、デザイン作業が始まります。

 先生は海外でのお仕事も多く、この打合せの後もトルコとヨーロッパにお出かけでしたが、お忙しくてもメールの返信はきちんとくださるので、進行はとてもスムーズです。帰国された頃にちょうど色校が出るという絶妙なタイミング。少し時間をかけてチェックしていただき、色の調整を重ねて、出来上がりました。

 この『旅する蝶』には、製作中から、フランス語版のオファーが入り、先生のパリでの個展に合わせて出版が決まりました。他の国からも問い合わせが多く、うれしい限りです。

 オオカバマダラの壮大な旅を追いながら、子どもたちに自然のすばらしさ、生命の神秘を感じてほしいと願っています。