
気づけばクモの虜に
物心ついた時から生き物が好きでした。でも、私の興味はチョウやクワガタ、カブトムシといった誰もが知っている虫ではありません。なぜなら、それらは多くの人が知っていて、どんな本にも載っているからです。そんな私が夢中になったのがクモでした。
きっかけは小学四年生の時、親に買ってもらったクモの図鑑です。毎年夏休みの自由研究では生き物の観察を行っていましたが、その年、親から「クモが面白そうだから観察してみたら?」と薦められました。確かにクモは身近にいますが、それまであまり意識したことはありませんでした。そこで、とりあえず町内の草むらへクモを探しに行ってみたのです。虫網を振ってみると驚くほどたくさんのクモが採れました。それも、いろんな種類のクモが――。こんなに身近に多くのクモがいるのに、今まで気づかなかったなんて。その瞬間、自分の知らない新しい世界が広がったように感じました。
クモは本当に面白い生き物です。糸を自由自在に操り、獲物を捕まえるために網を作ります。その網の形も、グループや種によって実に多種多様です。また、クモの進化の道筋も興味深いものです。原始的なクモは網を張らず、地中に生息していましたが、徐々に一部が地上に進出し、空中に網を作り始めました。そして、さまざまな環境に適応し、平面の網や三次元的な複雑な網を張るようになったのです。一方で、複雑な網からシンプルな網へ進化するグループもあり、完全に網を張ることをやめたクモもいます。なぜこんなにも多様なのでしょうか? クモの進化をたどるだけでも、興味が尽きません。
こうして自由研究をきっかけにクモに興味を持ち、その頃の好奇心が高じて、今では仕事の一部としてクモの研究を続けています。私が出合ったのはたまたまクモでしたが、子供の頃の小さな出合いが、その後の人生に大きな影響を与えることもあるのです。
今回書いた本が皆さんにとって何か新しい知識や発見に触れるきっかけになれば、そんな思いを込めています。
(ばば・ゆうき)●既刊に『クモの巣ハンドブック』『クモハンドブック』(以上、共著)『クモの奇妙な世界』など。
少年写真新聞社
『知れば楽しいクモの世界 〜網のひみつと忍者のような能力!? 〜』
馬場友希・著
定価1,760円(税込)