日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『ぼくのはじまったばかりの人生の たぶんわすれない日々』 代田亜香子

(月刊「こどもの本」2025年1月号より)
代田亜香子さん

トンネルを抜けるまで

 主人公のベニーは、小学校五年生の男の子。家族の問題やら友だち関係やら学校の勉強やら、なんだかうまくいかないことが多くて、もの思いにふける哲学者になっています。

 私は小学生のとき、男の子ってなんて野蛮で単細胞なんだろうとよく思っていました。だからベニーがそこかしこに見せるデリカシーのなさはとてもしっくりきましたが、悩みごとを抱えている小学生男子というイメージが最初のうちは正直ピンときませんでした。だけど読み進めていくうちに、ベニーが胸を痛めている姿がいじらしくて、気づいたらすっかりベニー応援団長の気分になっていました。

 自分のことでせいいっぱいなベニーにはイラッとするところもありますが、必死で辛い現実に耐えている姿は、今はツラいけど必ずトンネルを抜ける日が来るから頑張れ! って声援を送りたくなります。

 いまの小学生はシュッとしていて大人っぽく見えますが、この年代ならではの悩みはきっと同じでしょう。この作品には、この年ごろの子の、実は傷つきやすい気持ちがものすごく繊細に描かれていると思います。

 ベニーは、両親のことが大好きです。やたらいじってくる兄のことも本当は頼りにしているし、妹のこともとてもかわいいと思っています。なのに素直になれません。それはベニーだけの問題ではなく、まわりの大人たちにもダメなところがたくさんあって気持ちがすれ違ってばかり。身近な相手であればあるほど、愛情表現ってむずかしいものです。でも、伝えられるうちに愛を伝えたり、小さな幸せを感じられる時間をかみしめたいなと感じました。どんなにめんどうくさくても、どんなにひねくれたい気分でも。

 こんなふうに悩んでいる子たちには、暗いトンネルのなかを手を引いてくれる人はたくさんいるよと、この物語を通して伝えたいです。

(だいた・あかこ)●既訳書に『七月の波をつかまえて』『翼はなくても』『希望のひとしずく』など。

『ぼくのはじまったばかりの人生の
鈴木出版
『ぼくのはじまったばかりの人生の たぶんわすれない日々』
イーサン・ロング・作・絵/代田亜香子・訳
定価1,870円(税込)