日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『くろねこリリーのひとりだち』 くさかみなこ

(月刊「こどもの本」2025年1月号より)
くさかみなこさん

新しい世界へ旅立つあなたへ

 黒猫のリリーはもうすぐ一歳。猫は一歳で一人前になり、親元を離れて一人でくらすのが決まりです。

 我が家には二匹の猫がいます。先住猫のピノはちょうど一歳になるころ、大人の猫としてくさか家にやってきました。「猫はたった一年で大人になるんだなあ」と思ったのが、このお話が生まれるきっかけでした。

 黒猫のリリーというキャラクターができ、ひとり立ちについて想いを巡らすうちに、自分が18歳で上京したときのことを思い出しました。

 実家を出る前は、新しい食器や家具を選びながら、ワクワクした気持ちでいっぱいでした。なのに、いざ一人になると、時々寂しい気持ちが込みあげてきたのを、今でもよく覚えています。

 リリーは生まれてから一年かけて、ひとり立ちに必要なことをパパとママから教わります。実用的なことから楽しいことまで、日々の生活の中から学んでいきました。

 そして、ひとり立ちするころには、暮らしに必要なことを習得しただけではなく、何気ない暮らしの中から小さな幸せを見つけることが得意な、明るい女の子に育ちました。リリーはひとり立ちが楽しみで仕方がなく、ワクワクした気持ちでその日を迎えます。

 それでも、初めての一人暮らしは不安がないわけではありません。夜一人になると、寂しさと不安な感情がわいてきました。そんなとき、リリーを支えてくれたものは何でしょう? ぜひ絵本を読んでみていただけると嬉しいです。

 横須賀香さんの描く希望に溢れた明るい色彩がこの絵本を魅力的にしてくれました。新しい世界に飛び込む子どもたちとあらゆる人のもとに届きますように。

 私には二人の娘がいます。上が21歳で下は19歳。あと数年でひとり立ちする日がやってくるかもしれません。その時は、かわいいリリーに想いを託し、この絵本を贈りたいと思います。

●既刊に『あなたがうまれたとき』『こねこねねこのねこピッツア』『きみがいるから』など。

『くろねこリリーのひとりだち』"
小学館
『くろねこリリーのひとりだち』
くさかみなこ・作/横須賀 香・絵
定価1,540円(税込)