どちらもほっこり、おでんと銭湯
日本人なら誰でも、寒くなってくると恋しいのがお鍋です。その中でもおでんの人気は群を抜いていて、今日ではコンビニの定番メニューにもなっています。大根、玉子、こんにゃく、練り物類の定番に加え、牛すじ、タコ、ロールキャベツなど、各地域や家庭でお好みの具材を加えられるのも魅力です。
随分前にも、おでんの絵本を書こうとしたことがあります。その時のあらすじは、おでんたちが通うスイミングスクールのエースの昆布くんが、寄せ鍋やすき焼きなどの他の鍋へと道場破りへ行き、しまいにはカレー鍋やチーズフォンデュなど、世界の鍋のキャラたちと格闘するというものです。あまりにも盛り込み過ぎて、漫画や童話だったら良かったのかもしれませんが、絵本には不向きでした。ただ、おでんの絵本はどうしても書きたく、その後もアイディア探しを続けていました。
そんなある日、以前おでんを煮込み過ぎて、具材、特にはんぺんを巨大化させてしまったことを思い出しました。その膨らむ様は鍋を覆い尽くす勢いで、かなり衝撃的でした。そうだ、あれにしよう!! こうして今回の絵本の出発点が見つかりました。舞台は昭和レトロな銭湯。おでんのキャラたちが、日常的に集う場所としてぴったりです。出汁の銭湯で、はんぺんが巨大化するためには、何か事件が起きなくてはいけません。そこで、真っ赤なタコくんの登場です。タコは関西風おでんのイメージですが、昭和レトロな銭湯には短気な江戸っ子のほうが似合うと思い、あえて江戸弁を喋らせてみました。大体ここまで来ると、キャラたちが勝手に動き出してお話を作ってくれます。はんぺんに挟まれたタコくんが、タコママを思い出すシーンは、我ながらおかしくてたまらなくなりました。プリプリ怒っていたタコくんも、最後にはほっこり。
おでんと銭湯、何が起きても一日の締めくくりに温かく癒してくれる、最強アイテムの組み合わせです。ぜひ、お風呂に入って、おでんを食べながら、絵本もご堪能ください。
●既刊に『おかずたちのおでかけ』『どうぶつパンやさん』『おべんとう』など。
ひかりのくに
『おでん せんとう』
さとうめぐみ・作・絵
定価1,078円(税込)