いろんな青の海の上
この本のほぼすべての背景は、海。
そのために、まずいつも使う机は狭いので、床に新聞紙を広げ、マスキング済みのケントボードを置き、海の色がたっぷり入っているどんぶりと刷毛を用意。刷毛は優しい毛のものを。絵具は、水彩絵具とカラーインクの青。
そしていざ塗らん、足元にボードを構え呼吸を整える。整える、というのは、極端なムラが出ませんようにと緊張してドキドキするのを静めるため。
青色は濃度によってとんでもないムラが出ることがあり、それを味だと思えばいいのだけれど、静かな海はやはり均一な塗りでいきたい!
手ぶれなくうまくいくように祈りながら、刷毛を手にして紙面に青をおろし、一気にひく! ひいて、戻してひいて……息してません。
水平線から足元まで広がる海。水平線あたりの海の底は気が遠くなるほど深く、桟橋の下の海は浅瀬が広がっています。これをふまえて色を塗っていくのがとても大事です。
さて、塗り終えて緊張が解けたと思いきや、海の中にあの優しい刷毛の毛が一本抜けて斜めにくっついている、〇・〇〇一ミリのチリが落ちてくっついている! うらめしい! ちなみに毛は絵具を集めてそこだけ濃くなり、チリは吸ってそこだけ白く色が脱けます。色校で消してもらうのもありなのですが……。
荒れた海の表情を出す時は、ぼかしや加筆、ペンで墨線も入れます。
表情といえば、気のつよい主人公とわるい海賊の顔。ずっと顔がわからないまま怒鳴りあいが続いて、ついに対面となった場面では、ほんの少し戸惑いを二人の表情に入れました。それと、お互いがちゃんと目を合わせるために目の位置を決めますが、微妙なズレで合わなくなり、これまた緊張します。
海中の表現は、海面の揺らぐ白波を意識しました。子どもの頃溺れて、もがきながら見た海面が役立ちました。ドウと盛りあがる荒れた海は、揺れ止め装置がない船で外海に出た経験があって、よかった!
(さたけ・みほ)●既刊に『ヨーレのクマー』(宮部みゆき/作)、『ちいさな木』(角野栄子/作)など。
徳間書店
『気のつよいちいさな女とわるいかいぞくのはなし』
ジョイ・カウリー・文/当麻ゆか・訳/佐竹美保・絵
定価1,760円(税込)