日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『イチからつくる ホウキ』 宮原克人

(月刊「こどもの本」2024年9月号より)
宮原克人さん

自然に働きかけ ものをつくる

 ホウキを初めて作った時のこと、手の内で草からホウキに変わることを味わいながら、作り上げた喜びの感情は今も鮮明に残っています。少し大袈裟に聞こえるでしょうが、それが正直な感想です。普段から木工や漆芸などに関わる制作をしており、私にとってものを作ることは日常の行為です。ホウキを作る面白さは、不思議と他の誰かにもこの喜びを伝えたい、自然とそんな気持ちになる面白さです。

 その辺にある植物を束ねれば、とりあえずのホウキができます。そして、使うことができます。使いにくければ、素材を変える、作り方を工夫するなど、すぐに改善できます。本書でも、ホウキモロコシ、ホウキグサ、ミゴ、タケ、シュロ、鳥の羽など、実に様々な素材でできたホウキを紹介しています。適当に作り出し、失敗できるものづくりは、改善できるものづくりでもあります。使うものを作る、そしてそこから学びを得ることは、現代の暮らしにあっては贅沢な時間かもしれません。

 手を動かしてホウキを作る。その手触りを伴った経験は、ホウキという物を通して、道端の草木を造形素材として理解することに繋がるでしょう。この「イチからつくる」シリーズは、例えば道端の草木が、ホウキになったり、染料や接着剤になったり、糸になり布ができたり、食材や香辛料になり料理ができたりと、新たな視点を手に入れるお手伝いになります。また、ホウキに関する歴史的な事柄やホウキに関わる物語のエピソードなども交えてホウキを様々な面から見ていくのも本書の特徴です。

 本書では、筑波大学の学生と一緒に考案したつくば式ホウキ(できるだけ簡単に、そして優れた造形性を持つ!)の作り方を紹介していますが、本当に伝えたいことは、作りたければなんとかなる、手を動かして楽しもう、というメッセージです。人が自然に働きかけることから用あるものを作り出す。そのように、自然のものを扱う技術について考えるきっかけになることを願います。私が感じた作る喜びをぜひ多くの方へ届けたいと思います。

(みやはら・かつと)●既刊に監修を担当した『都道府県別 伝統工芸大辞典』。

『イチからつくる
農山漁村文化協会
『イチからつくる ホウキ』
宮原克人・編/堀川理万子・絵
定価2,750円(税込)