日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『いのちつぐ「みとりびと」(全4巻)』 國森康弘

(月刊「こどもの本」2012年11月号より)
國森康弘さん

「命のバトンリレー」を描く写真絵本

 小学5年の恋ちゃんがある朝めざめたら、大好きなひいばあちゃんが亡くなっていました。誰かに叱られたらかばってくれる、優しいおばあちゃん。

 ただ近ごろは物忘れがひどくなり、恋ちゃんを見ても名前が出てこなくなりました。…でも、忘れてなどいませんでした。恋ちゃんは、大切な「宝物」。恋ちゃんの顔を見るたび、しわくちゃの笑顔がぱっと咲きました。

 早寝早起きで毎日畑に出かけていたけど、一週間前から布団から出なくなりました。「もう、これいらん」と入歯も外し、食べようとしませんでした。何か寂しいこと、悲しいことが待っているかもしれないと、恋ちゃんは心の隅で予感がしていました。

 でも、いつの間にかどこかいっちゃうなんて…。まだちゃんとお別れしていない。「ありがとう」って伝えてない。「さよなら」なんて言いたくない。

 1巻は曾祖母の死に向き合う恋ちゃんの物語。この写真絵本は滋賀県東近江市永源寺地域を主舞台にした全4巻ノンフィクション。2巻は一人暮らしで認知症を抱える「ナミばあちゃん」の旅立ちを、3巻は高齢者やがん患者に寄り添い、住み慣れた場での生活を最期まで支える医師たちの活動を、4巻はあたたかな看取りを通して命の有限性と継承性を教えてくれた九家族の「命のバトンリレー」を描いています。

 死は誰にも必ず訪れる―。でも看取りを通じて人は、代々受け継ぎ亡くなる本人も蓄えてきた生命力と、溢れる程の愛情を受け継ぐことができます。

「これを教材に、どう教えたらいいか分からない」と途方に暮れる先生がいるそうです。…何も教えなくていい。ただ子どもたちが自らの五感と第六感をもって触れてくれれば、十分です。おばあちゃんたちは写真の中から、ずっと語りかけている。大切な何かをきっと教えてくれますから。

 恋ちゃんはひいおばあちゃんの冷たいおでこに触れ、手を握り、話しかけて、キスした。「私もいつか、おおばあちゃんみたいに、優しいおばあちゃんになれるかな」

(くにもり・やすひろ)●既刊に『家族を看取る』『証言 沖縄戦の日本兵』など。2011年度上野彦馬賞(グランプリ)を受賞。

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農文協
『いのちつぐ「みとりびと」』(全4巻)
國森康弘・写真・文
揃本体7,200円