
考えることを楽しもう!
一昨年から昨年にかけて、『中学生までに読んでおきたい日本文学』(全10巻・あすなろ書房)を刊行しました。このシリーズは、おかげさまで好評のようで、次々と版を重ねています。
そこで、版元からは「続編を『哲学』で」というご提案をいただきました。私は、「哲学」を系統的に読んだことはありません。しかし、かつて『ちくま哲学の森』を編集したとき、編者のひとりである哲学者の鶴見俊輔さんは、「哲学は哲学書や哲学講義の中にだけあるのではありません。私たちの日常の暮らしの中や、それを綴った文章の中にも、根本的な問題を考えるためのヒントはちりばめられているのです」と教えてくれました。
そういう目でいろんな本を読んでみました。そして、学者、思想家、小説家、詩人、劇作家、映画監督、俳優、芸術家など多彩な書き手による、味わい深い文章を選んでいきました。大事な問題を考えるヒントになるエッセイ、随筆や小評論、面白くて考えさせられる掌編小説や落語などをテーマ別に収録してみました。その結果が『中学生までに読んでおきたい哲学』全8巻にまとまっていきました。
それでも、この哲学の世界を私ひとりでガイドするのには力不足ではないかと考えました。そこで思いついたのが友人のイラストレーター南伸坊さんでした。南さんとは、よく、「子どもって哲学者だよね。『死んだらどうなるの?』とか『自分って何なの?』といった根源的なことを問いかけてくるじゃない」というような話をしていました。その上、南さんの素晴らしいところは、そのまんま子どもになることができるところです。そういう視点で、河合隼雄さん、養老孟司さん、多田富雄さんなどとの対話本や『笑う哲学』という本も出しています。南さんこそ、哲学アンソロジーの「案内人」にふさわしいと考え、お願いしました。彼は快く引き受けてくれ、本文への導入となる哲学的漫画を描いてくれました。おかげさまで、メリハリのついた奥の深いシリーズができあがりました。
(まつだ・てつお)●既刊に『編集狂時代』『印刷に恋して』『「本」に恋して』など。
あすなろ書房
『中学生までに読んでおきたい哲学』(全8巻)
松田哲夫・編
南 伸坊・案内人
本体各1,800円