日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『じっちょりんのたんじょういわい』 かとう あじゅ

(月刊「こどもの本」2023年5月号より)
かとう あじゅさん

桜のじゅうたんを歩き進む小さな生き物のリアル

『じっちょりん』という言葉をはじめて見聞きした方は、一体どんなものを想像するのでしょうか…?。

 きっと訳が分からないですよね。それは「人間のような蟻のような蜂のような花のような…」このくらいでやめておきます。簡単にいってしまえば『小さな生き物』です。

 シリーズ一作目のデビュー作『じっちょりんのあるくみち』を出版してから、春夏秋冬のじっちょりんたちの暮らしぶりを描かせていただきました。

 四季を巡る第一期の四冊は終わり、第二期ということで、編集者さんから新作のお話をいただきました。子育て真っ最中の為、第一期の制作環境とは全く異なり、自身の制作時間がどれだけ確保できるのか、締め切りのある仕事が無事に終えられるのか等々、不安要素の多い中、自然と『誕生』というワードが最初に浮かびました。それから季節は『春』と浮かび、『桜』が浮かび、その後は、じっちょりん側から語りかけてくれるようなところもあり、お話が進みだした気がします。

 桜が咲き始める頃は、「これから何かいい事が始まる気がする」そんな想いが心の隅っこにひそんでいるように思います。そして見事に満開となり、儚く散っていくと、今度は姿の変わった桜を見て、なんだか寂しい気分になったり、「終わっちゃったね」というような言葉がでてきたりします。

 そんな感覚を前向きに描きたく、桜の花びらが地面に降り積もる頃、足元では、花びらに込めた期待やワクワクを引き継いで、じっちょりんたちは桜のじゅうたんを進み、誕生のお祝いをします。一人だけの誕生のお祝いではなく、じっちょりんの仲間たちみんなのお祝いを描きたいと思いました。

 じっちょりんたちは、花咲くことを喜び、散った花も食べるけど、タネだけは食べないで、時折植えながら歩き進んでいく生き物です。

 絵本の冒頭で朝を迎える場所は、現実と非現実の境界線を示すように感じ『生垣』にしました。絵本の中で起こっている、小さな生き物のリアルを感じてもらえたら嬉しいです。

●既刊に『じっちょりんのあるくみち』『じっちょりんのなつのいちにち』『じっちょりんとおつきさま』など。

『じっちょりんのたんじょういわい』
文溪堂
『じっちょりんのたんじょういわい』
かとう あじゅ・作
定価1,540円(税込)