日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『カメラにうつらなかった真実 3人の写真家が見た日系人収容所』 松波佐知子

(月刊「こどもの本」2023年4月号より)
松波佐知子さん

真実はどこにある?

 第二次世界大戦中、米政府は在米日系人を敵とみなして強制収容所に送りました。突然自由を奪われた日系人の多くは心の傷を負い、解放後も屈辱的な体験を語ろうとしませんでした。

 マンザナー強制収容所を記録撮影した三人の写真家のうちの一人、報道写真家のドロシア・ラングは著者の名付け親でした。ドロシアが収容所で撮った日系人の肖像写真を見た著者は、その背景にある「真実」を確かめ、後世に伝える必要があると思い、この本を書きました。

 小学校高学年からのノンフィクション絵本として出版されましたが、グラフィック・ノベルのようなイラストと豊富な記録写真や資料が巧みに組み合わさり、大人にとっても読み応えのある歴史書となっています。

 私が特に共感を覚えたのは、著者が立場も意図も異なる三人の写真家の記録写真を見比べながら、〝彼らが何を撮り、何を撮らなかったのか〟という視点で多角的に真実を見出そうとした点です。

 以前私は色々な国籍の写真家たちと街中で写真を撮っていたのですが、同じ場所で撮影しても、後でみんなの写真を見比べると一枚として同じ写真はありませんでした。例えば同じ花でも、上から撮る人、横から撮る人、花の中の虫をアップで撮る人もいます。私たちは主観というフィルターを通して世界を見ながら、それだけが真実だと思いがちです。でも様々な角度から見なければ、本当の姿を捉えられないことをこの本は示唆しています。

 戦後、口を閉ざしていた日系人たちは、3世を中心とした日系人の名誉回復運動に促され、徐々に収容所体験を語り始めました。その声は米国社会に広がり、やがてはレーガン大統領による公式謝罪につながりました。

 強制収容から80年、今も世界では人種差別や争いが繰り返されています。三人の写真家の一人、宮武東洋の「こんなことは二度とあってはならない」という思いが、この本を通じて多くの人に届くことを願っています。

(まつなみ・さちこ)●既訳書に『犬ロボ、売ります』「ふたりはなかよし マンゴーとバンバン」シリーズなど。

『カメラにうつらなかった真実 3人の写真家が見た日系人収容所』
徳間書店
『カメラにうつらなかった真実 3人の写真家が見た日系人収容所』
エリザベス・パートリッジ・文/ローレン・タマキ・絵/松波佐知子・訳
定価3,850円(税込)