日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『ひみつのもりのいちねん』 柴田晋吾

(月刊「こどもの本」2022年9月号より)
柴田晋吾さん

俳句の絵本をお楽しみください

 私が絵本の世界で仕事をするようになったきっかけはいくつかあります。

 その中のひとつは、一歳年上の従兄が小学生のときに、自分の思いを書いて人々に伝える仕事をしたいと語り、後年俳人になったことです。

 物語を書きはじめた五十六年前に、いつか従兄の力を借りて、子どもたちに向けた俳句の絵本を出版したいという夢を持ちました。

 ひとことに五十六年と記してしまいましたが、長い長い時間が経過してしまったものです。そのほとんどが、俳句の絵本を作りたいけれどどのようにしようかという自問自答の期間でした。

 そして忘れもしない十年前、従兄である俳人・本井英(もといえい)とゆっくり語りあえるチャンスが訪れました。そこで夢中になって俳句について質問しました。

 なんともうれしいことに従兄は基本中の基本を語り聞かせてくれました。そのときに、めぐりめぐっていく季節を軸に、自然を満喫するようなお話を作りあげていこうと決めました。

 重い重い神輿が立ちあがりました。またまた時間を費やしてしまうのではないかと危惧していたのですが、ぐいぐいと面白いように物語を書きつづることができました。それは筆力ではなく、私と従兄の少年の頃の体験をモデルに書いていったからです。

 我々が遊んだのは、まだまだ山の方は開発されていない鎌倉でした。お互い以外誰とも会わず、自然にあふれた空間で一日中、魚を手づかみしたり、山菜を摘んだりと、至福の時でした。

 物語のなかで主人公のあらたが詠む俳句は私が作り、それにこたえるように、本井英がおじいさんの詠む俳句を作ってくれました。またこの度、なんとも幸せなことに竹上妙さんが素晴らしい視覚展開をしてくださいました。この場をお借りして二人にお礼を述べさせてください。

 今の子どもたちに、自然のすばらしさ、俳句の素敵さ、めぐりゆく時の無限の感覚を味わっていただけましたら、こんなにうれしいことはありません。

(しばた・しんご)●既刊に『トントコトンがあいずだよ』(津田櫓冬/絵)、「四季のえほん」シリーズ(広野多珂子・他/絵)など。

『ひみつのもりのいちねん』
くもん出版
『ひみつのもりのいちねん』
柴田晋吾・作/竹上 妙・絵/本井 英・俳句
定価1,430円(税込)
9月26日発売予定。表紙デザインは製作中のものです