日本児童図書出版協会

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こどもの本

我が社の売れ筋 ヒットのひみつ31
『とうもろこしぬぐぞう』 ポプラ社

(月刊「こどもの本」2022年4月号より)
『とうもろこしぬぐぞう』

めくるたびに笑い声がはじけるデビュー作!

はらしままみ 作・絵
2021年6月刊行

 2019年冬、「絵本のラフがあるのだけど、ちょっと来て」と社内で先輩に声をかけられたのが、私と『とうもろこしぬぐぞう』との出会いになる。緊張しながら向かうと、そこにはデビュー前の作者はらしままみさんと、フリーで数々の絵本を手掛けられてきた編集者の松田素子さんがいらした。この作品は松田さんが主宰する絵本のワークショップ「チャブックス」で何年も練られてきたものだとのこと。ラフを拝見すると、なんと! とうもろこしのおっさん?が座っているではないか。墨ラインで描かれた筋肉質なおっさんが、まっすぐにこちらを見つめ微笑んでいる。私の目はその容姿にくぎづけになり、葉っぱの服を脱いでいく展開に一瞬にして心をわしづかみにされた。「これ、やりたい!」——ぬぐぞうさんの第一印象だった。

 さて、それからは私も〝ぬぐぞうチーム〟として加わらせてもらい、さらに1年半にわたる刊行までの道のりが始まった。はらしまさんは、とうもろこしを観察しては、ぬぐぞうさんの表情から筋肉の動き方までひたすら描いて描いて描き続けた。時に筋骨隆々になりすぎると、松田さんから「子どもたちが愛着をもてるぬぐぞうさんになってるかしら?」「『もういっかい読んで!』と何度も言われる本にしたいよね。だったら……」といった様々なアドバイスを受け、はらしまさんも根性を見せてくださった。そこにデザイナーが書体を選び文字を配置し、さらに勢いを増した『とうもろこしぬぐぞう』を、私は企画会議にかけた。するとどうだろう! ざわざわ……手ごたえあり! 会議後、社内に〝ぬぐぞう売るぞうチーム〟が発足され、様々な施策が打たれた。

 気づけば6月の刊行後、リブロ絵本大賞入賞、絵本ナビNEXTプラチナブック入選、MOE絵本屋さん大賞新人賞第2位など、昨年はぬぐぞうさんが大活躍した年になっていた。読者の声も届き始め「ページをめくるたびに子どもが大笑いしています」「毎晩服を脱ぐ時にぬぐぞうさんのまねをしています」といったはがきの一枚一枚から、そこに生まれた楽しい時間を感じることができた。

 そもそもこの絵本、はらしまさんの息子さんが通う園で、楽しそうにとうもろこしの皮むき体験をする子どもたちをみて生まれたという。「子どもが笑う」というのはこの絵本の原点なのだろう。ここ数年のマスク生活でみんなが窮屈な思いをしている中、とうもろこしぬぐぞうの勢いのある脱ぎっぷりは、見ているこちらの心も体もぱあっと解放してくれたのかもしれない。そして、はらしまさんのデビュー作『とうもろこしぬぐぞう』は今、間違いなくたくさんの親子の間に「ばりばり! べろーん」という声とともに笑いと元気を届けてくれている。

(ポプラ社 小堺加奈子)