日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『やっぱり じゃない!』 チョーヒカル

(月刊「こどもの本」2022年4月号より)
チョーヒカルさん

いつでも余白を

 まさか自分が絵本を作るとは、正直思っていませんでした。『やっぱり じゃない!』は『じゃない!』という絵本の第二弾で、カボチャにピザのペイントをしたり、そらまめに魚のペイントをしたり、そんなペイント作品たちを集めた、驚きの詰まった写真絵本です。実はこの絵本の元となるペイント作品は、ずっと個人的に作っていたもので、それをフレーベル館の編集さんから絵本にしたいとご依頼をいただき、「こんな変な作品が子どもたちに面白がってもらえるだろうか」と半信半疑で作ったのが『じゃない!』でした。

 自分が中国国籍で日本生まれ日本育ちだというバックグラウンドもあり、昔から「〇〇はこうだ」と決めつけるような言動が苦手でした。生まれた場所や国籍、肌の色、性別、性的指向、そんな表面上の大きな括(くく)りで誰かのことをわかったように語られることがずっと理解できなかったのです。そんな中で、そこに歯向かうように作ったのが、この絵本の元になったペイント作品でした。トリックアートのようなキャッチーさを利用しつつ、「ペイントも見抜けないのに、表面上のレッテルだけで誰かを理解できる訳が無い」という強気なメッセージを込めています。そんな気持ちのこもった作品が、こんなふうにたくさんの人に、特にこれからの将来を担っていく子どもたちの元に届き、受け入れてもらえ、楽しんでもらえているということが本当に嬉しく思います。

 決めつけてしまうことは、必然的に起こります。普段の生活から、経験から、メディアから、少しずつ気づかないうちに固定観念は出来上がってしまうし、それ自体は悪ではありません。どんな人でも偏見を持っています。大切なのは、そんな人間の性質を受け入れて、自分を少し疑ってみる気持ち。「あれ、本当にそうだっけ?」「そうじゃないかもしれない」、そんな少しの余白を残そうという意識だと思います。『じゃない!』『やっぱり じゃない!』を通して、そういう余白をみんなの心に作ることができれば嬉しいです。

●既刊に『じゃない!』『絶滅生物図誌』『エイリアンは黙らない』など。

『やっぱり じゃない!』
フレーベル館
『やっぱり じゃない!』
チョーヒカル・作
定価1,540円(税込)