日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『はじめて学ぶ精神疾患(全4巻)』 水野雅文

(月刊「こどもの本」2022年3月号より)
水野雅文さん

心の不調に正しく対処するために

 心の健康問題は深刻味を増しています。とかく大人の病気と思われがちな心の病、精神疾患ですが、実は10代、20代の若年で発症することが多いです。今般の学習指導要領の改訂では、現代社会に生きる上で誰もが学習するべき課題のひとつとして、高等学校保健体育の中に「精神疾患の予防と回復」が加わりました。

 疫学調査によれば、生涯におよそ30%の人が何らかの精神疾患に罹患するとされ、そのうちの75%が25歳前に発症しています。10代のうちに、誰でも罹りうる疾患であるという認識と疾患についての正しい知識、さらに自身が不調を感じた時の適切な行動や、周囲の人が精神疾患に罹った時の関わり方についても考える機会が必要です。しかし、精神疾患について子どもに尋ねられた時、あるいは不調を訴えられた時に、自信をもって対応できる大人は少ないです。精神科医としては、我慢したり、否認したり、不信なSNSで相談するのではなく、早期に信頼できる大人や専門機関に相談できるよう、正しい知識を身につけて欲しいと願っています。海外では英語圏を中心にメンタルヘルスに関するリテラシーを高めるための教育が、教育課程に位置づけられてしっかりと行われている国も多いです。

 本シリーズでは、学習指導要領解説に記載された4つの疾患、うつ病、統合失調症、不安症、摂食障害について解説しました。形の見えない精神疾患を、書籍を通じて伝えることは容易でなかったのですが、本シリーズでは豊富なイラストを用いて、内容の質を落とさずわかりやすく説明しました。心の不調が、時には気のせいなどではなく、脳の病である点も隠さずに明確に伝えています。

 コロナ禍で再び自殺者数や、不登校の子どもの数の増加が報道されています。心の不調を感じた時、あるいは不調を相談された時に、適切に行動するためには、準備が必要です。子どもたちだけではなく、ぜひ一緒に考える時間を持つために活用してもらいたいです。

(みずの・まさふみ)●既刊に『心の病気にかかる子どもたち 精神疾患の予防と回復』『心のケアの羅針盤』など。

『はじめて学ぶ精神疾患(全4巻)』
保育社
『はじめて学ぶ精神疾患(全4巻)』
水野雅文・シリーズ監修
定価各3,300円(税込)