日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『女王さまのワードローブ』 前沢明枝

(月刊「こどもの本」2022年2月号より)
前沢明枝さん

服が語るエリザベス女王の生き方

 二人の小さな子どもを育てている二五歳のママが王さまになった。しかもイギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ、パキスタン、セイロンと、七つの国の王に。

 まるでおとぎ話のようだけれど、これは一九五二年、当時のイギリス王女エリザベスの身に起きたことです。「女王の仕事は、家に帰れば終わる、というものではありません」と語るまじめなエリザベスは、それから七〇年間にわたり、十数か国の元首のみならず、五〇以上のコモンウェルス(イギリス連邦)の国々の首長も務めてきました。

 エリザベスは国王であった父にならい、子どもの頃から国民とともに在ることを心がけてきました。第二次世界大戦中、物資が不足すると、王室も配給制度でやりくりします。そして一四歳のエリザベスは、ラジオ番組に出て、親元を離れ疎開している子どもたちに、ともにがんばろうと励ましの言葉をおくりました。

『女王さまのワードローブ』は、そんなエピソードを交えながら、エリザベスが生まれてから現在まで、まとってきた服を通してその半生をたどる、ユニークな伝記絵本です。

 つぎつぎに登場するきらびやかなドレスや宝石は、明るいイラストでていねいに描かれていて、その特徴を一目でつかむことができます。目を見張るような豪華な王冠も、ちりばめられた宝石の輝きに惑わされずに、その形状をとらえることができます。

 最初はファッション雑誌を見るような気軽さで読み始めたのですが、ああ、何ということでしょう! この絵本は、エリザベス女王の敬愛すべき人間性までちゃんと描きだしているのでした。読めばきっと皆さんにも、女王がイギリス国民に愛される理由が見えてくることと思います。

 歴史を大切にする女王は、今日がまた歴史になることを知っているからこそ、淡々と一日を送り、歴史を引き継ぐ未来の人びとのことまで思いやります。今年は在位七〇年。世界最長の在位記録を更新し続けています。

(まえざわ・あきえ)●既刊に『「エルマーのぼうけん」をかいた女性 ルース・S・ガネット』、既訳書に『帰れ 野生のロボット』など。

『女王さまのワードローブ』
BL出版
『女王さまのワードローブ』
ジュリア・ゴールディング・文/ケイト・ヒンドレー・絵/前沢明枝・訳
定価1,980円(税込)