日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『ねこまたごよみ』 石黒亜矢子

(月刊「こどもの本」2021年12月号より)
石黒亜矢子さん

ねこまたごよみについて

 猫又家族の十二ヶ月をひと月ずつ、じりじりと描いていましたら、今の自分の家族を通り過ぎて、子どもだった自分と両親との家族の記憶がどんどんと蘇ってくるのです。夏休み、従兄弟たちと箱根に行った事や、下校途中の金木犀、学校での防災訓練。全て自分が子どもになり、その目線で思い出されます。

 頭に浮かぶ過去の記憶の映像は、ブラウン管テレビのように不鮮明で黄ばんだ絹目写真のようでした。そんなところまで昭和感を忠実に再現しなくていいのに。その頃、頻繁にしていた妄想も色々と思い出しておりました。部活での球拾いが暇で、ぼんやり入道雲を眺めていた時に妄想していた「空魚」、これは文月に登場させています。

 そうだ、絵本作家に憧れていた中学生くらいの自分も思い出していました。「よかったな。大人の今絵本描けてるぞ」なんて頭の中で呟いたり。過去の自分をそんなふうにちょろちょろと思い出しながら絵本を描くなんて、これまでにない珍しい感覚でした。

 なんてセンチメンタルな事ばかりでなく。今回の絵本、実はとてもとても時間がかかりました。細かく描いてある季節の絵本や図鑑的な絵本は昔から大好きでしたが、自分がやるとなると話は違いますね。シマシマ眼鏡の人を探す絵本ほどは、全然、全っ然細かくないのですが。私には精一杯の細かさでして、とにかく頑張ったんです。ちなみに、頑張った私の絵本制作工程。本番と同レベルの鉛筆下絵→トレース(筆入れ)→着彩。中でも下絵が一番楽しい工程です。色々想像して描いていられる至福の時間帯。なので一番時間がかかります。次に筆入れ。和紙に筆で線を引く瞬間が好きです。逆にうまく線が引けないとイライラします。いつもは楽しい筆入れですが、今回は絵の多さに半分写経してるような気分になりました。仕上げの着彩が一番頭を悩ませ、緊張します。

 さて最後に。『ねこまたごよみ』は、猫又家族を通して猫又たちの一年の生活を覗きみる絵本です。普通なようで普通でないどこか懐かしいけどなんかおかしい猫又たちを賑やかに描きました。是非たくさんの方に読んでいただきたいです。

(いしぐろ・あやこ)●既刊に『どっせい!ねこまたずもう』『おろろんおろろん』『つちんこつっちゃん』など。

『ねこまたごよみ』
ポプラ社
『ねこまたごよみ』
石黒亜矢子・作
定価1,650円(税込)