日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

我が社の売れ筋 ヒットのひみつ25
『みずとは なんじゃ?』 小峰書店

(月刊「こどもの本」2021年8月号より)

かこさとし先生、最後の絵本

かこさとし 作/鈴木まもる 絵
2018年11月刊行

 かこさとし先生が最後に手掛けられた絵本『みずとは なんじゃ?』は幼い子向けの科学絵本、全四巻「水・空気・土・火」の一冊として考えられたものでした。とくに水は、かこ先生が長年、絵本にと思っていらしたテーマでした。化学会社の研究者で工学博士のかこ先生にとって水は特別な存在だったのです。一九九八年にいただいた資料にも「水の研究」「水とは何ものか、異常異端物質 水物語」とあり、形を変えながら温めてきたものでした。

 ところが、原稿がほぼ固まり、下絵(絵の案)もできた二〇一八年三月、体調の悪化から絵を描くことが難しくなってしまいました。そこで、鳥の巣研究者でもあり、子どもを生き生きと描かれる鈴木まもるさんに絵を託すことになりました。かこ先生と鈴木さんの打ち合わせは二回行われ、二回目の様子は「NHKプロフェッショナル仕事の流儀」で紹介されました。痛みのために休憩を挟みながらも鈴木さんの一次ラフをチェックされ、ご自身の文章にも厳しくダメ出し。子どもたちにわかりやすく伝えることにこだわられました。

「絵本の完成でお元気になれば」と鈴木さんが超特急で作成した二次ラフへのお返事をお待ちしている時、ご逝去の知らせを受けました。ベッドでチェックされたラフには子どもに身近な花や野菜の絵を入れる、水の循環を描くなどの赤字が。ご家族、鈴木さんとご相談し、絵本の完成を目指すことになりました。

 かこ先生が残してくださった絵本を読者にどう届けるか、営業、制作、広報、編集で話し合いを重ねました。絵本に込められた思いを多くの方に知っていただきたいと皆が強く思っていました。そして小冊子で直筆原稿や下絵などを紹介することに(初回限定。HP一部掲載)。表紙はご家族による、かこ先生がいらっしゃるような穏やかで温かな書斎写真。鈴木さんが寄せてくださった文章には幼い頃からの愛読書『かわ』や絵に登場するかこ作品のことが。鈴木さんがかこ先生の思いを形にしてくださったと改めて感じました。HPでテスト校など制作過程も紹介し、ご家族と鈴木さんが会われた見本完成時には新聞、雑誌、TVなどに取材していただきました。

 かこ先生の思いを知った方が伝えたいと感じてくださり、更に伝わっていく……多くの人の思いで広がっていくのを感じました。書店さんも伝えたいと思ってくださり、定番絵本として店頭に定着しつつあります。作者の思いを絵本の形にすることだけでなく、伝えること、知ってもらうことの大切さを感じました。これからも絵本とともに、絵本に込められた思いも伝え続けていければと思います。

(小峰書店 小林美香子)