日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

我が社の売れ筋 ヒットのひみつ22
「パンダたいそう」シリーズ 講談社

(月刊「こどもの本」2021年4月号より)
「パンダたいそう」シリーズ

子どもたちのからだがしぜんに動く!

いりやまさとし 作
2016年9月〜刊行

 二〇一六年秋、ある書店のイベントで、『パンダなりきりたいそう』を、作者のいりやまさとしさんが読みはじめた時のことです。

 冒頭、「なりきりたいそう はじめるよ」という呼びかけに、腰をおろしていた子どもたちが、すっと立ち上がりました。いりやまさんが絵本の本文「りょうてを うえに あげて」を読めば、子どもたちは両手を上げ、「おしりを くねくね」と読めば、左右に腰をくねらせというように、ごくしぜんにからだを動かしはじめたのです。今でもこの瞬間の驚き、興奮、喜びを忘れることはできません。

 本はいろいろな読み方がありますが、この絵本は、「からだで読む」絵本と言ってよいでしょう。子どもたちは、パンダになりきった「つもり」で、パンダといっしょに体操をしている「つもり」で、からだ全部をつかって、この絵本を読んでいるようです。

 それがわかってからは、この「そのつもり」感を大切にすべく、「パンダなりきりおめん」の型紙を作り、ウェブ上に無料公開しました。その後は、書店でのおはなし会にお使いいただけるよう、かんたんな台本、おめん、動画DVDのセット配布も始めました。園や小学校、図書館などでの読みきかせ会にこの絵本を使いたいというお問い合わせもどんどん増えていきました。

 その後、イタリア・スペイン・フランス・タイ・ベトナム・韓国・中国・台湾と、次々に翻訳出版もされ、子どもが「からだで本を読む」のは世界共通なのだと実感しています。

 二〇二〇年、私たちは未知のウイルスに遭遇し、子どもたちは、思うように遊んだり、おともだちと集ったりということができなくなりました。でもやっぱり、子どもたちは元来、からだを動かすのが好きなのです。このような時分でも、「そのつもり」力を発揮し、家のなかで体操している様子が、ときどき編集部に伝わってきます。

 昨年の緊急事態宣言が出るひと月前、パンダになったつもりで手洗いすればその時間も楽しくなるのではと思いつき、「パンダてあらいたいそうポスター」を作りました。すぐに編集部のSNSで配信したところ、国内の園や図書館、博物館、さらには台湾・韓国・イタリア・スペイン・ベトナムといった海外からも、翻訳して使いたいとのオファーが届きました。厳しい状況下でも、言語や文化をこえて、私たちが確かにつながっていることを感じる出来事でした。 

 ちいさいパンダたちの「そのつもり」力を信じて、これからも、からだいっぱいで楽しめる絵本を作っていきたいと思っています。

(講談社 長岡香織)