日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『ひかりの森のフクロウ』 広瀬寿子

(月刊「こどもの本」2021年4月号より)
広瀬寿子さん

フクロウのいるところ

 私の住む住宅地はまわりを谷と森に囲まれている。フクロウの声は、実際には聞こえない。でも、森の道を歩きながら、私の心はいつもフクロウの声を聞いていた。神秘の鳥への憧れがあった。 その年の秋は、例年になく森の黄葉が美しく、沁みるばかりに映えていた。しばらく書くことから遠ざかっていた私に、もう一冊読みたいと夫がいったので、フクロウと森を書くことにした。 よく歩く道の一角に、こんもりと茂る小さな森がある。森はもとは家の庭だったらしく、奥に古びた家があった。そこを舞台にした。 大好きな兄と別れた少年が、その古い家で一人のおじさんと出会う。むかし、弟を〝フクロウ森〟で失ったおじさんだ。 孤独な二人の心が交差した時に生まれた幻想のフクロウを描いた。二人にしか見えない幻影 ..。 永い苦しみののちに自ら過去と決別するおじさんと、彼を理解することによって、自分も前向きに歩きだそうとする少年。喪失と再生の物語として、これを書いた。 読んでくれる子どもたちには、理屈ぬきで現実のむこうにある世界に身を置いてほしい。この作品は、それぞれの感性で受け取り方が大きく異なる気がする。読者の想像力にゆだねたい。 挿絵にはずいぶん助けられた。金色の落ち葉が舞う〝ひかりの森〟のシーン。その絵の中に、私は飛び去るフクロウを探した。フクロウはどこにもいなかった。作者であるのに切なかった。画家さんがこの作品を深く理解してくださったことに感謝した。 森の中にぽっかりと現れた〝ひかりの森〟は、実際に夫と歩いて見つけた場所だった。 この作品の校正が出るころ、夫は病に倒れた。出版社の計らいで、新刊はかろうじて意識のあるうちに彼に届けることができた。 別れの日、斎場の窓から近々と森が見えた。家族だけの静かな弔いの間、森には金色の葉が落ち続けていた。

(ひろせ・ひさこ)●既刊に『秘密のゴンズイクラブ』『かぐや姫のおとうと』『ぼくはにんじゃのあやし丸』など。

『ひかりの森のフクロウ』"
国土社
『ひかりの森のフクロウ』
広瀬寿子・作/すがわらけいこ・絵
定価1,540円(本体1,400円)