日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『やっこさんのけんか』 殿内真帆

(月刊「こどもの本」2021年2月号より)
殿内真帆さん

折紙たちのその後……

 この絵本は、折紙のやっこさんたちが、ささいなことから一番を競ううちに、ついには取っ組み合いのけんかになってしまうさまが描かれています。

 私はこれまで、やっこさんのみならず、折紙には人並に親しんできました。しかし一方で、折紙には、いつもどこか飽き足らない思いを抱えていました。

 というのは、折紙は、折っているまさにそのときが最も楽しく、いざ折りあがってしまうと、とたんに興奮が冷めてしまう感じがするからです。

 特に子どもの頃など、できあがった折紙たちは、たとえどんなに上手に折れたとしても、そこいらにほっぽらかされて、しばらくすると母に、「これとっておくの? 捨てていいの?」などと聞かれ、「どっちでもいい」などと答えるのが常でした。

 そんな折、『サギトカラス』という折紙を扱った絵本を目にする機会がありました。大正二年(1913年)に、巌谷小波著、岡野栄画で、中西屋書店から出された「お伽手工画噺」と銘うった五冊組のなかの一冊です。「手工」と名のつく通り、表紙にはゴムバンドがついていて、実際に折紙のサギとカラスが添えられる意匠になっています。

 おそらく、折紙を手にしながら絵本を楽しむという趣向なのでしょう。お話は、白いサギは白いもの、黒いカラスは黒いものを次から次へと持ちよるかたちで繰り広げられます。

 私はこの絵本を手にして、膝を打ちました。折紙は、折ったら終わりではなく、できた折紙たちのその後の物語をつむぐことで、より愛着をもって楽しむことができるのだと思ったのです。

 『やっこさんのけんか』は、こうして今から百年以上前の絵本に着想を得てつくられました。この絵本では、紙の特色をできるだけ生かそうと考え、折紙をハサミで切ったり手でちぎったりもしています。ぜひみなさんも臆することなく、折紙を存分に遊び尽くしてみてください。

 この絵本によって、ひとつでも多くの折紙たちに命が吹きこまれることを願っています。

(とのうち・まほ)●既刊に『ぼくのおおきさ』『みずたまり』『ひょうたんとかえる』(西條八十/作)など。

『やっこさんのけんか』"
フレーベル館
『やっこさんのけんか』
殿内真帆・作・絵
本体1,400円