どきどきわくわく新しい世界の入り口になりますように
舞台は奈良の明日香村。幼いころに行方不明になったお兄ちゃんをさがすため、ある丘にのぼった真秀が奇妙に光る石を拾い上げると、辺りに、もやが立ち込めて――。
こんな場面から、この物語は始まります。飛鳥時代への、タイムスリップ・ファンタジー。
日本史の中でのタイムスリップ、をテーマとした後、舞台をどの時代にするかについては、とても悩みました。
飛鳥時代と決めた後も、実はまだ悩んでいました。もっとメジャーな時代、たとえば戦国時代あたりのほうが興味を持ってもらいやすいのではないか。
飛鳥時代は、風俗などまだはっきりわからない点が多いし、政治的にもいろいろと複雑で、物語の背景を簡潔に説明するのが難しそう。
それでも、なじみのない時代だからこそ、この物語が飛鳥時代への興味をもつきっかけになれば――と思ったのです。
私がデビューしたのは、少女小説。当時、育てていただいた編集者の方に言われたのが、
「ここは、児童書を卒業した子が入学してきて、やがて卒業していくジャンルです。その子たちが小説好きになって卒業後も読みつづけていく、大人の小説への入り口になる物語を作りましょう」
ということでした。
それが今も、いつも私の頭の中にあるように思います。
私が綴った物語がきっかけになって、今回ならば飛鳥時代に興味をもって、もっともっと知りたいと思って、調べてみたり別の本を読んでみたり明日香村へ旅行してみたり――そんな、楽しみへの入り口になれば嬉しい。
だから、とにかく楽しい物語になるように。この後どうなるの、とワクワクしながらページをめくっていく、その手が止まらなくなるような面白い物語になるように。そう願いながら書きました。
楽しんでいただけますように。
(くらもと・ゆう)●既刊に『寄り添い花火 薫と芽衣の事件帖』「むすめ髪結い夢暦」シリーズなど。
アリス館
『まほろばトリップ 時のむこう、飛鳥』
倉本由布・著/いつか・装画
本体1,400円