日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『パンフルートになった木』 巣山ひろみ

(月刊「こどもの本」2020年10月号より)
巣山ひろみさん

木が奏でる平和のメッセージ

 わたしは広島生まれの広島育ちです。もちろん、平和公園にも行き、たびたび原爆ドームのそばを通ります。しかし、心のどこかで、みんな過去のできごとだと思っていました。四年前に、たまたま新聞記事で見かけた「被爆樹木」という言葉に出会うまでは。

 今から七十五年前。広島に原子爆弾が投下されました。強烈な熱線と放射線を、爆風とともに浴びた土壌には、七十五年間草木が生えないといわれました。しかし、爆発の中心地から約二キロメートル以内の場所で生きのび、再び芽吹いた木がありました。そんな木のことを、被爆樹木と呼びます。

 今でも焦げ跡の残る木や、曲がったままの木もあります。懸命に生きる木の姿は、未来への希望の象徴になりました。

 被爆樹木のひとつに、広島市立千田小学校のカイヅカイブキの木がありました。木は戦後七十年あまり、小学校の校庭で、子どもたちを見守りつづけました。枯れかけたとき、そのいのちを、なんとか子どもたちの未来につなげることはできないだろうか。そう考えた人たちがいました。

 やむなく切り倒された木は工房に運ばれ、パンフルートに生まれ変わりました。パンフルートは、木や竹などの管を束にした笛です。

 二年前、はじめて千田小学校合唱隊のコンサートに行き、パンフルートの素朴で澄んだ音に触れました。演奏を通して、平和のメッセージが伝わってきました。

「ああ、木はこうして、もう一度生きていくのだな」と感じました。子どもたちの歌とパンフルートの音を聞きながら、このことをわたしができることで伝えたいと思いました。

 合唱隊、パンフルート製作者、演奏家、被爆者、そして、被爆樹木をパンフルートにつないだ方たちへの取材を重ねました。

 こがしわかおりさんの絵がついたことで、木の言葉のこぼれる絵本になりました。耳をかたむけていただけたら幸いです。

(すやま・ひろみ)●既刊に『逢魔が時のものがたり』『バウムクーヘンとヒロシマ ドイツ人捕虜ユーハイムの物語』など。

『パンフルートになった木』"
少年写真新聞社
『パンフルートになった木』
巣山ひろみ・文/こがしわかおり・絵
本体1,400円