日本児童図書出版協会

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こどもの本

我が社の売れ筋 ヒットのひみつ15
「チリとチリリ」シリーズ アリス館

(月刊「こどもの本」2020年3月号より)
「チリとチリリ」シリーズ

絵本がもたらす幸福感、安心感

どいかや 作
2003年5月~刊行

「チリ」と「チリリ」のふたりが、自転車にのっていろいろなところへ出かける「チリとチリリ」シリーズ。ロングセラーとして版を重ねています。森、原っぱ、町、ときには海の中まで……。奇想天外な大冒険というわけでもなく、いつもふたりは、ちょっと不思議な世界にいき、ちょっと幸せな体験をします。そして、いつも自分にぴったりな「何か」を見つけて帰ってきます。読者にとって身近に感じる体験が、・何度も読みたくなる・この本の魅力だと思います。

 あるとき、作者のどいかやさんは山陰の山奥を自転車で走っていて、森の中で神秘的なものを感じたそうです。きっと森の奥には人間の知らない世界があるに違いない、こんなお店があったり、こんなことが起こったりするかも……その日泊まったホテルで書き留めたメモが、この本の原型になりました。たしかにチリとチリリが旅する世界は、自分が暮らしている世界の、すぐとなりにありそうな気がします。身近な乗り物である「自転車」で不思議な世界へ旅ができ、ふたりの名でもある「チリ チリリ」という音が繰り返し出てきて、懐かしく心地よいのです。

 ふたりは、男の子なのか女の子なのか、何歳なのかも謎です。イベントで「チリとチリリは何歳なのですか?」と5歳くらいの女の子に尋ねられ、どいさんは「何歳なのでしょうね。5歳なのかもしれないし、30歳だったりもするかも? でも5歳だとしたら、ふたりぐらしで、だいぶ自立した子達だよね(笑)」と答えていました。

 7巻目となる『チリとチリリ あめのひのおはなし』は、シリーズ6年ぶりの新刊で、どう受け止められるかとドキドキでしたが、蓋を開けてみると、今までの読者もちゃんと待っていてくれ、さらに、新しい小さな読者もたくさん増えたことがわかりました。

 読者から募集している「雨の日にチリとチリリといっしょにたべたいおやつ」の応募作品が、何より、それを伝えてくれています。「あまぐもクリームソーダ」「あめのしずくわたあめあじ」など、発想豊かで美味しそうで、見ているだけで幸せになるお菓子ばかりです。

 読者の方からの感想には「宝物」という言葉を多く見かけます。チリとチリリが、自分にとっての宝物を見つけるという内容とともに、鉛筆画の淡いタッチの絵がなんとも可愛く美しいので、本自体が宝物のようだと感じてくれているようです。

 この本は、これからも、たくさんの人にとっての宝物となっていくはずです。

(アリス館 山口郁子)