
こどもは親を選べない
「こどもは親を選べない」
その言葉に、ドキッとした親は少なくないに違いありません。わたしもその中の一人です。
この世に生を受けた子を育んでいくのは、言うまでもなく親の役目です。けれど、今、胸をふさがれるような悲しい事件があちこちで目につきます。一見豊かに見えるこの日本の中で、こどもを育むことができない親がじわじわと増えているのです。その現実に目を向けたのが、『こどもしょくどう』という映画です。
わたし自身は、それまで「こどもしょくどう」という言葉を聞いたことはあるものの、具体的にどのようなものを指すのかまったく知りませんでした。そのネーミングから、こどもたちが集まってにぎやかにごはんを食べる楽しそうな食堂……と思っていたのですから、なんともお恥ずかしい限りです。
映画は、主人公の少年と友人が車に住む姉妹と出会うところから始まります。二人は、車の中で父親と暮らしているのです。母は失踪し、父もやがて姉妹をおいていなくなってしまい、取り残された姉妹は、食べるものすらなくなってしまうのです。少年は自分の家に二人を連れて行くことにします。彼の家は、食堂を営んでいたのです。
これが、「こどもしょくどう」の始まりとして描かれています。
映画の中に一貫して流れているのは、大きな哀しみです。どこにでもあるような家庭が、ある日突然壊れてしまう。日常の中に潜む小さな穴に、すとんと落ちてしまい、はいあがることができなくなってしまう……。そんな穴は、もしかしたらいたるところに潜んでいるのかもしれません。哀しみをやわらげるのは、「こどもしょくどう」のような小さな光です。点のような光も、集まれば暗闇を照らすことができるようになるのではないか……そんな願いを込めて映画を作品へと書かせていただきました。今の社会が抱えるこどもたちの問題に、多くの人が目を向けてくれることを願ってやみません。
(ひろはた・えりこ)●既刊に『マリと子犬の物語』『ゆずり葉』『ひまわり 沖縄は忘れない、あの日の空を』など。
汐文社
『こどもしょくどう』
足立 紳・原作/広鰭恵利子・文
本体1,400円