世代をこえて楽しめる絵本
長谷川義史 作
2009年12月刊行
読者カードの戻りがいまだに群を抜いて多い本書です。読者カードの「ご感想、イラストなどご自由に」と書かれたスペースに、子どもたちは感想とともに楽しい絵を描いてくれ、いつもニマニマしながらながめています。
お気に入りの県の絵を、長谷川義史さんの絵をまねしながら描いてくれることが多いのですが、どうも私の印象では大仏の絵が一番多いような……「それならと だいぶつさんも おならけん 奈良県」ですね。この手のネタは不動の人気です。
そしてこの絵本を応援してくれる厚い層に、子どもたちとともにシニアの方々がいます。小さなころ、県のだじゃれを言いあい、笑いあったおじいちゃん、おばあちゃん世代。「すべって ころんで 大分県」はなつかしいですという声はよく聞きます。「風がそよそよ福岡県というようなダジャレはよくしゃべっていました」というお便りももらいました。八十歳の男性です。(ちなみに、本書の福岡県はちょっとちがうだじゃれです)。
なつかしさとともに、お孫さんとのコミュニケーションツールとしても役立てていただいているようです。読み聞かせなどと言われると緊張するおじいちゃんも、ああ、だじゃれね、昔よく言ってたなーと垣根が低くなり、お孫さんに読みあげて一緒に楽しんでくださっているようです。
調子をつけて歌うように、何度も声に出して読むこと自体が楽しいとおっしゃってくださる方もいます。吃音のお孫さんが本書を家族の前で音読してくれたということを感謝を添え、伝えてくれた方もいました。こちらこそ、教えてくださってありがとうございますと言いたい気持ちです。
2009年に本が出版されて累計三十万部になりました。何をおいても長谷川さんの絵の迫力、見開きで掛け合い漫才のようにだじゃれを言い合う面白さや、どのページにも必ず登場するクリ坊の存在など、絵本の構成力や隠し味など、ヒットの要因はたくさんあると思います。そんな中でも、この本の世代をつなぐコミュニケーション力が、こちらの想像を大きくこえて届いていたことはとてもうれしいことでした。
孫とこの本を読んだ女性は、いつか孫が成長し、日本のどこかを旅した時、この本を思い出すのではと読者カードに書いてくださいました。
そうです、そして本とともに一緒に絵本を読んだおばあちゃんのこともきっと思い出すことだろうと思います。それが絵本の力だと思います。