物語の風にふかれて

「人は、自らの人生を俯瞰するとき、そこに何を見るのでしょうか」

　本書の大きなテーマは、私自身への問いでもありました。

　自らの人生を俯瞰し、来し方を辿るとき、それはこれからの人生の行く先、未来について考えることを促します。

　私は、三十年あまり、児童文学作家として世界中の子どもたちの心に届くようにと、たいせつなテーマを新しい題材で、さらには表現方法を工夫しながら作品を書き続けてきました。

　たとえば、本書の五つの物語に込めた、「幸せは自分が決める」、「希望は伝えられる」、「豊かさとは何か」、「優しさは受けつがれていく」、「生き方が人生になる」。これらは、どれも私の中のたいせつなテーマです。

　そして今回は、私にとっての新たな試みとして、あえて児童文学という枠組にとらわれないようにし、さらに、全編横書きで、文章のレイアウトを工夫し、絵や挿絵は入れず余白を生かし、文章のみを研ぐことにしました。たとえどんなに素晴らしい絵や挿絵であっても、それは、まず画家やイラストレーターが、経験や資料に基づき想像し構築した世界だからです。

　私たちが物語を読むとき、読み手の想像する力によって、登場する人物の心情や情景は無限に広がります。これは、読書の本質にかかわる大きな楽しみです。

　すなわち、本書の各ページ、そして各物語の世界は、読者の皆様一人一人の想像する力によってのみ、それぞれの心の中に広がるのです。まさしく本書は「絵のない絵本」なのです。

　新しいスタイルの本を、さらにいえば新しい文学のジャンルをつくるつもりで完成させた本書の五つの物語には、風がふいています。

　新しい時代を迎え、東京オリンピック、大阪万博と時代が大股で歩いて行くような今だからこそ、どうか、子どもも大人も物語を渡る風にふかれながら、一度立ちどまり、深呼吸をするように、五つの物語をお楽しみいただければ幸いです。

（くすのき・しげのり）●既刊に『おこだでませんように』『Life（ライフ）』『あなたの一日が世界を変える』など。

星の環会
『海の見える丘 あなたの未来へ贈る５つの物語』
くすのきしげのり・著
本体1,300円