日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『ちいさな魔女とくろい森』 岡田千晶

(月刊「こどもの本」2019年6月号より)
岡田千晶さん

登場人物の目線で

 展覧会やイラストの仕事のために、一枚きりの絵を描くことがあります。

 そういう場合はいつも、思い浮かんだシーンを描いています。登場する人や動物の、そのときの気持ちや次の行動をイメージして、ある瞬間を切り取るように設定を考えます。そうすることで絵のイメージを膨らませやすいし、なにより描いていて楽しいです。

 絵本『ちいさな魔女とくろい森』はそんな一枚の絵を編集者さんを通して石井睦美さんに見ていただいたことがきっかけでした。とてもすてきなストーリーに仕上げていただきうれしかったです。制作中は物語に感情移入して、場面が変わるたびにちいさな魔女の気持ちになったり、おおきな魔女になったり、ちいさな魔女を見守る動物たちの気持ちで描きました。

 絵本は文章と絵が互いを補い合いながら、読む人のイメージを膨らませて世界観を作るものだと思います。

 物語は満月ではじまり満月に終わります。物語の展開では月の満ち欠けを意識しました。暗い夜、黒い森の中で、月明かりやカマドの炎の明かりが重要な役割を果たすと思いました。主人公たちを照らし出す光の角度や強さを考えて構図を選びました。

 おおきな魔女が一晩中薬を作る場面では、眠っているちいさな魔女におおきな魔女の影が届いています。夢の中で一緒に作っている感じを出したかったし、ちいさな魔女の安心して眠っている心境を強調したいと思いました。その安心感は最後のちいさな魔女の自立へとつながっていくと思います。

 ちいさな魔女のことを森の動物たちが見守っています。ちいさな魔女が薬を完成させたことを動物たちが共に喜ぶ場面は、くろい森は病気でありながらも、ふたりの魔女をやさしく包み込んでいることを象徴させたかったのです。

 最後におおきな魔女がちいさな魔女に帽子を渡すシーンはどうしても入れたかった。おおきな魔女の気持ちになったら、一人でそこに残るちいさな魔女に何かを残して行きたかったのです。

(おかだ・ちあき)●既刊に『ゆめのとびらをひらくとき』(K・ニューソン/作)、『ハンカチさがし』(森山京/作)など。

『ちいさな魔女とくろい森』"
文溪堂
『ちいさな魔女とくろい森』
石井睦美・作/岡田千晶・絵
本体1,500円