日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『どうぶつパンやさん』 さとうめぐみ

(月刊「こどもの本」2019年5月号より)

『どうぶつパンやさん』 さとうめぐみ

さとうめぐみさん

目で見て、言葉を聞いて味わう絵本

『おべんとう』を作ったひかりのくにさんから再び、作る側と食べる側の両方を楽しめる、おいしい絵本の依頼が来ました。題材にはいくつか候補がありましたが、編集者と何度も話し合い、絞りに絞ってパンに決めました。

 近年、あちらこちらにおいしいパン屋さんが増え、手軽に買うことができます。お店の前に来た時の、あのパンの焼ける匂いに始まり、中に入った瞬間、ずらりと並ぶたくさんの種類のパンが目に入り、胸が高鳴ります。トングとトレーを持って「さて今日の気分は?」と選ぶワクワク、そう、パン屋さんは幾重にも楽しみがある、エンターテイメント施設です。

 しかし今回、いろんなパン屋さんを取材してわかったことは、店内の什器は大人の目線で作られ、パンは大人の目線で陳列されていることでした。

 確かにほとんどのお客さんは大人で、小さな子供が自分でパンを選ぶ光景はあまり見かけません。でも、きっとそれを可能にするパン屋さんがあれば、子供たちはとっても喜ぶでしょう。

 そんなワクワクを詰め込んだ絵本にしよう!というのがこの本への最初の思いです。

 ですので、パンを買うシーンはもちろん、作る場面も、自分が主役になった視点で描きました。よっぽど料理好きなお母さんでない限り、自宅でパン作りを体験するお子さんは少ないでしょう。(私もホームベーカリーでなら作ったことはありますが、今は埃をかぶっています笑)パンは、作るのにとても手間のかかる食べ物です。編集者に、パン屋さんがまだ暗い中で作業を始める資料を見せてもらった時に、出だしはこれでいこうと決めました。そんな作る側の大変さの一部でも感じてもらえたら、食べる時の気持ちも変わるかもしれません。

 作る側と買う側の気持ちが、真ん中で一つになるのがこの絵本の特徴です。作る人と、買う人の両者がいて初めて成り立つ、ハッピーエンディングです。こんがり焼けたパンの絵と、おいしそうな言葉の音を、この絵本で味わってもらえたら幸いです。

(さとう・めぐみ)●既刊に『おべんとう』『ケーキちゃん』『レモンちゃん』など。

『どうぶつパンやさん』"
ひかりのくに
『どうぶつパンやさん』
さとうめぐみ・作・絵
本体850円