日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『ねずみくんのおくりもの』(つちだよしはる)

(月刊「こどもの本」2019年2月号より)
つちだよしはるさん

いのちの声

 2016年の秋のこと、縁あって盛大な初売りで知られる仙台の百貨店の福袋企画「世界でたったひとつの絵本」に協力しました。福袋に当選したのは阿部昭子さん。初日の打ち合わせで、彼女が持ってきたのは、10年前に亡くなったご主人が書いた原稿でした。
 僕が鉛筆で下書きしたものを阿部さんがなぞって色を塗っていくのですが、制作中、阿部さんはご主人の恭嗣さんのことをたくさん話してくれました。9歳で筋ジストロフィーを発症したこと。手や足を動かすことが難しくなり、車椅子生活を送りながらも難病理解のため小学校などで講演をしていたこと。精力的に活動していく中、病気の併発や進行で声も失ってしまったこと。
 恭嗣さんは声を失ってから、唇で操作して文字を入力する「クチマウス」と出会い、このお話を書いたそうです。一文字一文字打つ、その作業は、おそらく相当大変だったと思います。「大好きなねずみちゃんの誕生日を祝おうと、ねずみくんが森や雪山を駆け巡ってプレゼントを見つける」というお話は、想像の世界に広がる森や山を自由に駆け巡るねずみくんに自身の希望を託し、愛する人へ贈った誕生日プレゼントだったのです。
 絵本の題名は、いつも呼んでいた恭嗣さんの呼び名を入れて『やっちゃんの贈り物』になりました。しばらくすると、僕の元に喜びの感想が続々と届くようになりました。でも、このお話は恭嗣さんが奥さんのためだけに書いた大切なラブストーリー……。色々と考えるうち、難病を患い声を失っても一生懸命書き続けた恭嗣さんの「いのちの声」を子どもたちに聞いてほしい、そう思うようになりました。そして、昭子さんや編集者と原稿を読み返し、手を加えて、この『ねずみくんのおくりもの』が出来上がったのです。
 先日、昭子さんの元へ恭嗣さんの日々の生活を支えていたボランティアさんが集まり、出版記念会が開かれました。11年経った今も恭嗣さんを熱く語り、涙する人たちに見送られ、今、恭嗣ねずみくんがたくさんの子どもたちに出会う旅が始まったところです。

(つちだよしはる)●既刊に『うたえほん』『きいろいばけつ』『おとうさん』など。

『ねずみくんのおくりもの』本体1,200円
教育画劇
『ねずみくんのおくりもの』
つちだよしはる・文絵
あべやすつぐ・原作
本体1,200円