日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『きょう、おともだちができたの』 種村有希子

(月刊「こどもの本」2018年8月号より)
種村有希子さん

色で感情を描くこと

 子どもの頃は、感情にともなって目の前の世界に「色」を感じていたように思います。そのはじまりは、私の場合、弟の生まれた日でした。よほど嬉しかったのでしょう。そして同時に、それまでの日々がモノトーンに見えていたことにも気がつきました。まさにこの絵本の主人公・ゆうなちゃんにりなちゃんという友達ができて、世界が色鮮やかに輝きだしたのと同じです。

 編集の西尾さんが私に絵を依頼したのは、「感情を色で表現できる人だから」だったそうです。まさにその通りで、いつも絵本の中では出来る限り固有色にとらわれずに、主人公の感情の色を描きたいと思っています。

 モノトーンの園庭から、明日の約束をして別れる場面への色の変化は一番難しかったところです。気恥ずかしさが残りつつ喜びが溢れ出す帰り道へつなぐ色―寒色でありながら暗くない色を試行錯誤しました。悲しみにも喜びにも濃度があって、そのわずかな変化を色に置き換えてこだわれたのは、この物語がとてもゆったり丁寧に感情を追った作品だからです。

 原稿を初めて読ませていただいたときに、自分もこうやってなんでもお母さんに報告していたなあと思い出して、自分のことのように描けました。逆に幼稚園児の甥っ子と手をつないで歩いているときの大人側の目線にも重なりました。見守られる子どもの気持ちと、見守る大人の気持ち、その両方がこの絵本全体のあたたかい空気を作っています。ちなみに見守っているのは大人だけではなく、花や雲だってひっそりとほほえんでいるのです。子どもの読者は、こうした細かいところにもすぐに気がついて喜ぶようです。これは作者の得田さんのアイディアだったのですが、自分にはない表現だったので、新鮮でした。

 また、ラストシーンの「変顔」をうまく描けるか不安だったのですが、取材先の幼稚園で気軽に「できるよ!」と披露してくれた女の子に助けられました。本物を参考にしたおかげで、出来上がった絵本を見て、甥っ子が変顔の真似をしてくれました。いい絵本になったと感じる嬉しい出来事でした。

(たねむら・ゆきこ)●既刊に『キノキノとポキのふしぎなみ』(種村安希子との共著)、『かくれんぼ』『きいのいえで』など。

『きょう、おともだちができたの』"
童心社
『きょう、おともだちができたの』
得田之久・作
種村有希子・絵
本体1、300円