日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『ぼくが見たお父さんのはじめてのなみだ』 そうま こうへい

(月刊「こどもの本」2018年7月号より)
そうま こうへいさん

「男だろ、なくな!」
 幼年童話の読者対象は小学低学年の子どもたちということですが、正直に言うと、僕は、そうした子どもたちが読んでいる姿をイメージして書いてはいません。では誰に向けて書いているかと言うと、対象はグンと狭く四人。妻と、僕の子どもである長男、次男、長女(子どもと言っても全員、現在アラフォーの立派な大人)に読んでもらいたくて創作しています。

 その理由は、ひとえに僕の性格にあります。僕はとても恥ずかしがり屋で、というか、ちゃんとしていなくて、妻や子どもたちに夫として父親としてちゃんとした話をちゃんと話すことができない困った性格なのです。

 そこで僕は妻と子どもに少しでも夫としての、あるいは父親としての思いをわかってもらいたいために、ちょっとずるいと思うけれどそれを幼年童話に託して創作しているのです。

 という何ともいい大人としては、それこそちゃんとした理由にもならない理由で幼年童話の仕事をしてきました。従って僕の書く幼年童話のほとんどが家族や親子をテーマとした作品で、その中で例えば、『ふたつのゆびきりげんまん』では、ごめんなさいが素直に言えない僕のかわりに、息子にいさぎよくあやまる僕と正反対の父親を登場させたり、『お父さんのVサイン』という作品では、その逆に、あせってついつい小さなウソをついてしまう僕に似た父親を登場させたりしながらストーリーを組み立てています。そしてお話に出てくる子どもは、小さい頃の息子や娘を思い出しながら書く……といった具合です。

 何だか前おきがずいぶん長くなってしまいましたが『ぼくが見たお父さんのはじめてのなみだ』もこうした思いで書きました。物語の中のおじいさんは僕の父、お父さんは僕、そして主人公のゆうきは長男がモデルです。

 私小説ならぬ私童話的な僕の幼年童話。この作品で伝えたい僕の思いが、妻と三人の子どもだけじゃなく、お父さんのなみだをまだ一度も見たことのない多くの小学低学年の子どもたちにも届くことを願っています。

(そうま・こうへい)●既刊に『はじめてのゆうき』『なきむしなっちゃん』『のっぺらぼうのおじさん』など。

『ぼくが見たお父さんのはじめてのなみだ』"
佼成出版社
『ぼくが見たお父さんのはじめてのなみだ』
そうまこうへい・作
石川えりこ・絵
本体1、200円