日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『もうひとつの屋久島から』 武田 剛

(月刊「こどもの本」2018年6月号より)
武田 剛さん

もうひとつの屋久島

 新聞社をやめて、屋久島に取材の拠点を移して五年。自然豊かな世界遺産の島で、まさか「原生林伐採の歴史」を主題にした本を書くことになるとは、想像もしていませんでした。

 きっかけは、樹齢数千年の「縄文杉」の取材です。二〇一六年に発見から半世紀になるのを機に、屋久島の森の歴史をひも解いてみました。すると、いま世界遺産になっている森も含め、その大半が国によって切り尽くされる寸前だったことが分かりました。

 森林の八割が国有林の屋久島で、かつて激しい伐採が続いていたことは、知識としては知っていました。でも、その伐採を止めるために、十年間にわたって反対運動を続け、国の方針をくつがえした人たちの話を聞くうちに、こう確信するようになりました。

「国が言う通りに、あのまま原生林を切り続けていたら、屋久島は世界遺産にはなれなかった」

 そして、私は「もうひとつの屋久島」があると感じました。この屋久島には、たとえ国が相手であっても、「自分の意見をしっかりと持ち、時には、それを主張する」ことの大切さを、多くの子どもたちに伝える力がある―。

 ただ、本を開いて、いきなり暗い伐採の話では、すぐに疲れてしまいます。

 そこで、南極から北極、そして屋久島へと続く、この十五年間の私の足跡を序章に。続いて、家族の猛反対にあいながらも、みんなを引き連れて、東京から屋久島をめざした移住記や、家を建てて、運よく新聞社とテレビ局の屋久島駐在になるまでの苦労話。そして、島の自然や文化などを取材記で紹介しながら、子どもたちを核心の伐採の歴史へと、いざなっていきます。

 これまで、本著と同じフレーベル館からは、報道カメラマンとして、南極観測隊に同行した体験記『ぼくの南極生活500日』と、長年にわたって、北極の狩猟民として生きる大島育雄さんを紹介する『地球最北に生きる日本人』を上梓しています。もしご興味がありましたら、三部作として、この二冊も手に取っていただければ幸いです。

(たけだ・つよし)●既刊に『ぼくの南極生活500日』『地球最北に生きる日本人』『南極のコレクション』など。

『もうひとつの屋久島から
フレーベル館
『もうひとつの屋久島から 世界遺産の森が伝えたいこと』
武田 剛・著
本体1、500円