日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

我が社の売れ筋 ヒットのひみつ4
『せかいでいちばんつよい国』 光村教育図書

(月刊「こどもの本」2018年5月号より)
『せかいでいちばんつよい国』

マッキーさんからのメッセージ
『せかいでいちばんつよい国』
デビッド・マッキー作 なかがわちひろ訳
2005年4月刊行

「一番にならなくても、いいんじゃないかなあ。」これは、2013年にこの絵本が某テレビ番組で取り上げられた際の、出演者の言葉です。

 自分たちの暮らしほどすてきなものはないと信じている大きな国の人々は、世界中の人々を幸せにするために、いろいろな国へ戦争をしに行き、征服していきます。ところが、最後に残った小さな国に戦争に行くと、その国には兵隊がいませんでした。小さな国の人々は、大きな国の兵隊たちを歓迎し、料理をふるまい、遊びや歌を教え、もてなしました。小さな国でしばらく過ごした大きな国の大統領が国に帰り、息子にこわれるままに歌を歌うと、それはどれも小さな国の歌でした。

 というのがこの絵本のあらすじです。番組では、絵本を全文朗読し、内容を解説し、出演者が日本を絵本の中の小さな国になぞらえて、「日本には世界に誇れる食べ物や文化、外国の人を受け入れるやさしさがあるのだから、世界で一番にならなくても、いいんじゃないかなあ。」と結んでいました。

 平明なおとぎ話のようでいて、やんわりと大きな問題提起をしているこの絵本は、小学校の国語の教科書でも紹介されています。子どもから大人まで、幅広い読者に読み継がれていくのはうれしいことですが、この絵本が戦争と平和という切り口で紹介されるたびに、不安定な国際情勢を思い、胸が苦しくなります。そのような中で、この言葉は、私にはとても新鮮でした。

 この絵本は、2004年にイギリスで刊行され、その翌年に小社より翻訳出版しました。2005年の夏、作者のデビッド・マッキーさんが初来日した折にお目にかかり、この絵本を制作したきっかけについてお話を伺う機会がありました。マッキーさんは、ふだん自分はあまり怒らない性質なんだけど、と前置きをしてから、アメリカの中東戦略への憤りと、イラク侵攻のニュースを耳にして怒りに震えたこと、そして、居ても立っても居られない思いで、ほとんど衝動的にたった十日間ほどでこの絵本を描き上げたことを話してくださいました。異なる文化を背景にもつ女性と家庭を築いたマッキーさんは、この絵本に、戦争と平和、そして、異文化理解についてのメッセージを込めたのだと思います。

 番組での出演者の言葉は、マッキーさんがこの絵本に込めたメッセージの、その方なりの解釈なのかもしれません。

 この絵本が、世界の平和や異なる文化を理解するきっかけになることを願ってやみません。

(光村教育図書 鈴木真紀)