日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『さとやまさん』 今森光彦

(月刊「こどもの本」2018年5月号より)
今森光彦さん

とっておきの写真絵本

 とっておきの写真絵本ができあがりました 本の題名は、『さとやまさん』。ぼくの大好きな工藤直子さんとのコラボです。直子さんは、この写真絵本に登場する風景に何度もいらしてくださいました。田んぼはもちろん、やまおやじというクヌギの枯木がたくさんある雑木林もいっしょに散策しました。

 写真絵本の舞台は、琵琶湖の西岸に広がる田園です。田んぼ、雑木林、ため池、川などが点在するなんでもないところなのですが、ぼくにとってはたいせつな場所なのです。

 早いもので写真家になってから今まで、この田園を40年ほど撮り続けています。よくもまあ同じ場所に通って飽きないね。そう思われるかもしれませんが、ここには、驚くほど数多くの生きものが暮らしていて、彼らとじっくりと語り合おうと思ったら、時間がとても足りないのです。

 それと、ぼくがいつも感心するのは、生きものたちが人といっしょに生きているということ。そう言うとまた不思議に思われるかもしれませんが、農家の人がお米を収穫したりシイタケを栽培することが、生きものたちによりよい環境をつくりだしています。そのかわり農家の人は、生きものの小さな息づかいに耳を澄ませて、美しい季節を味わっています。昔から日本人は自然への繊細な眼差しをもっていると言われますが、きっと、生きものとの共存関係がすばらしい感性を養うのですね。

 人と生きものが混ざり合っている、そんなほのぼのとした土地が里山。「さとやまさん」、直子さんは、心から愛情を込めてそう表現してくれました。何とも嬉しいかぎりです。

 この絵本を手にとってくれた子どもたちが、里山の温かさを感じてくれたら最高です。そして、このたいせつな場所のことを話し合うきっかけになったら言うことはありません。

 新沢としひこさんは、「さとやまさん」という題名で直子さんの詩にしみじみとした名曲を添えてくれました。ほんとうにありがとう。
(いまもり・みつひこ)●既刊に『ダンゴムシ』『カマキリ』『テントウムシ』、『里山の一日』(全4巻)など。

『さとやまさん』"
アリス館
『さとやまさん』
工藤直子・文
今森光彦・写真
本体1、500円