日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『妖精のメロンパン』 斉藤栄美

(月刊「こどもの本」2018年5月号より)
斉藤栄美さん

書きたいもの

 パン作りを題材に本を書こうと考えたきっかけは、友人の焼くパンがあまりにもおいしいからです。彼女は折々にパンを届けてくれます。私のささやかな行為への返礼はもちろん、体調がすぐれないとき、娘の試験日、祝い事に際して……。まだほんのりと温かなそのパンを食べるとどんな状況下でも食欲が湧き、心が落ち着き、元気が出てきます。まるで魔法みたい。そう、彼女はパンを焼きながら「食べる相手を想う」という呪文をかけているのでしょう。なんて素敵な営み、物語にしたい、と思いました。

 さて、そのパン作りの物語に、なぜ妖精を登場させたかというと、前述の「魔法」云々もですけれど、以前からドラえもんのようなキャラクターに憧れがありました。子どもにとって外の世界へ出ていくのは大変なこと。だからこそ家で待っている絶対的味方が必要と考えます。傍らにいて、共に喜び、悲しみ、いたずらや遊びも一緒に楽しんでくれるだれか―。「パンの妖精ココモモ」が生まれました。

 このシリーズは、主人公・小麦の成長物語という形を取っています。しかし、本を書く作業は登場人物すべてに感情移入することです。それでなくともココモモには、より人間に近いキャラクター付けを施しました。今回ココモモの気持ちになったとき、私は寂しさを実感しました。ココモモは小麦の家から出ることができません。外からの風は小麦を通じてでしか得られないのです。そのココモモのせつなさから『妖精のメロンパン』が書き上がりました。

 子どもが外へ出ていくのは大変。が、未知なる世界に触れるそれは幸せでもあるはずです。クタクタに疲れ、高揚した子どもが戻ってくる空間は、居心地の良い場所であってほしいと願います。

 ふと、思いました。(この本のページを繰るひとときも同様だったらいいな)

 そうか、今わかった。私が書きたかったものって、そういうことですね。

(さいとう・えみ)●既刊に『教室 6年1組がこわれた日』『妖精のあんパン』「ラブ偏差値」シリーズなど。

『妖精のメロンパン』"
金の星社
『妖精のメロンパン』
斉藤栄美・作
染谷みのる・絵
本体1、300円