日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『よろずトラブル 妖怪におまかせ』 三田村信行

(月刊「こどもの本」2012年4月号より)
三田村信行さん

大妖怪を追って江戸時代へタイムスリップ!

 映画にロード・ムービーというのがあります。旅の間にいろいろな事が起こり、最後にはハッピーエンドに終わるというのが定番です。日本では時代劇映画や時代小説にこの型が多く見られます。いわゆる道中物と呼ばれている作品で、お城を飛びだしたお姫様が、身分をいつわって旅をし、若侍と恋仲になるといったものが一般的です。

 以前はそうした作品が多かったのですが、最近は世情が厳しいせいか、そういった作品にお目にかかる機会があまりありません。わたしはそうした明朗時代劇(小説)が大好きだったので、常々残念でなりませんでした。

 そうした折りだったので、あかね書房さんから新作の依頼を受けたときに、よし、それなら自分が書いてやろうと思い立ち、実行したのが、この〈妖怪道中膝栗毛〉のシリーズです。

 書くにあたって留意したのは、わたしは時代小説が好きで、江戸時代についての知識も多少はありますが、読者の子どもたちはどうか、ということでした。そこで、SFの手法を使って、未来の子どもたちが、江戸時代にタイムスリップするという設定にしました。こうすれば、読者である現代の子どもたちが、主人公たちと同じ目線で江戸時代を体験できると思ったからです。

 もうひとつ工夫したのは、旅の目的です。ただの旅では面白くありません。そこで、大妖怪・山ン本五郎左衛門を追う旅ということにしてみました。稲垣足穂の山ン本五郎左衛門(「山ン本五郎左衛門只今退散仕る」)にどれだけ迫れるか、自分なりの山ン本五郎左衛門像を描いてみたいというのが、このシリーズの密かな企みでもあります。

 ともあれ、蒼太・お夏・信助の三人が、無事に終点の京までたどりつけるかどうか、いまのところ作者も手探り状態です。読者があっという結末で終わることができればいいなと、念じています。

(みたむら・のぶゆき)●既刊に『おとうさんがいっぱい』「風の陰陽師」シリーズ、「キツネのかぎや」シリーズなど。

「よろずトラブル 妖怪におまかせ」
あかね書房
妖怪道中膝栗毛②
『よろずトラブル 妖怪におまかせ』
三田村信行・作
十々夜・絵
本体1,200円