日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『ぽちっと あかい おともだち』 福本友美子

(月刊「こどもの本」2017年12月号より)
福本友美子さん

ぽちっと赤いものって?

 ホッキョクグマの子ミキは、雪の中で遊ぶのが大好き。冷たい海で魚をとるのに一生懸命なお母さんグマのそばを離れて、ひとりで遠くへかけだします。すると一面の雪景色の中に、ぽちっと赤いものが見えました。ミキが近くまで走っていくと、赤いものはだんだん大きくなって、前足を振っているではありませんか。そばに寄ってにおいをくんくん。赤いものは「くくくっ」と声を出しました。

 ミキが出会ったのは赤い服を着た人間の女の子だったのですが、この絵本は主人公の子グマの視点から描かれているので、「ぽちっとあかいもの」と表現されています。ミキは人間に会うのは初めてだったのでしょう。けれどもにおいをかいだり、さわりあったりしてすぐに仲良くなり、雪の上をころがりながら一緒に遊び始めます。

「ミキ」という名前は、イヌイットの言語(イヌクティトゥット語)で「小さい」という意味だそうです。ミキが出会った女の子は、服装から見てイヌイットの女の子でしょう。北極圏の雪と氷に閉ざされた厳しい自然が舞台ですが、絵は素朴で温かみがあり、幼い子どもの無邪気な喜びが伝わってきます。画面構成も工夫してあり、一面の白の中に赤を生かしたデザインが効果的です。

 主人公の小さな冒険、出会い、そしてちょっとした試練を乗り越え、最後はお母さんと一緒に寝床へ帰るというストーリー展開は、幼い子どもたちへの読み聞かせにぴったりです。翻訳するとき、私はまず原文を声に出して何度も読み、その絵本の世界をたっぷりと味わうのですが、この本には余分なところがひとつもなく本当にシンプル。それが幼い主人公の無邪気な視点をよく表していると感じ、子グマの気持ちに寄りそって訳しました。

 この絵本はイギリスの新進作家のデビュー作。絵を描いたイラストレーターもこれが二作目というフレッシュなコンビです。けれども新鮮な中にどこか懐かしい、安心できる雰囲気が感じられ、何度も読みたくなる一冊です。

(ふくもと・ゆみこ)●既訳書にP・メカトーフ『いもうとガイドブック』、M・ヌードセン『としょかんライオン』など。

『ぽちっと あかい おともだち』

少年写真新聞社
『ぽちっと あかい おともだち』
コーリン・アーヴェリス・文
フィオーナ・ウッドコック・絵
福本友美子・訳
本体1、600円