日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『もし きみが 月だったら』 木坂 涼

(月刊「こどもの本」2017年12月号より)
木坂 涼さん

月が語る月の入門絵本

「空を見て~! お月さまが綺麗だよ」と、日頃から私は友人にメールしたりする。

 そんな事を知るよしもない編集者さん(面識なし)から、ある日、「月をテーマにした絵本を訳してほしい」と連絡が入った。それが『もしきみが 月だったら』だった。

 原書を見ると、お月さまが自分のことを女の子に教えるというストーリー。地球から見える月を語るのではなく、月自身が「月目線」で自分を語るという視点がいきている。そして、絵本ではあるが科学に基づく説明もしっかり本文の中に組み込まれている。これは面白そうだと、引き受けることにした。

 しかし……、難航した。科学は日進月歩。原書の内容の裏をとりつつ、最新のニュースにも目を配った。言い回し一つで事実とずれてしまうし、専門用語をどこまで使うのか、迷う場面も多かった。編集者さんの的確な資料集めに、どれだけ助けられたかしれない。

 絵本の冒頭、女の子が月にむかって言う。「たまには お月さまみたいに、なーんにもしないで そらに ぽっかり うかんでいるのも いいかもね」。それを受けて月が言うのだ。「こう みえても いろんなことを しているんだよ」。そして「もし きみが 月だったら……」と語りだす。

 月は毎日休まず地球のまわりをまわること、地球がバランスをとるのも手伝い、自分自身も「バレリーナ」みたいにまわること。宇宙で「ドッジボールをするかも」しれないし、海と「つなひき」もするんだよと。月が自分を語る言葉は子どもたちに身近で、それも魅力だ。

 月は、地球上の生きものにとって、なくてはならない存在。夜行性の動物たちは、月に見守られ、農業をする人たちは、種まきや収穫の日を決めるために月を観察してきた。なにより「月の満ち欠け」は、私たちを楽しませてくれる、夜毎のすてきな天体ショーだ。

 この絵本に取り組んで、私自身、見上げる月が違って見えてきた。今まで以上に月が好きになった。

(きさか・りょう)●既訳書にC・ホートン『ちょっとだけまいご』、L・チャイルド『ぜったいたべないからね』など。

『もし きみが 月だったら』
光村教育図書
『もし きみが 月だったら』
ローラ・パーディ・サラス・文
ジェイミー・キム・絵
木坂 涼・訳
本体1、400円