日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私がつくった本80
BL出版 辻 美千代

(月刊「こどもの本」2017年12月号より)
さわってたのしむどうぶつずかん
さわってたのしむどうぶつずかん
ドーリング・キンダースリー社/企画・編集
長瀬健二郎/監修
2017年6月刊行

 この本は、イギリスのドーリング・キンダースリー社(DK社)が制作した本の、日本語版です。DK社はこれまで、優れた図版をふんだんに使用した書籍を出版してきました。子どもたちが物事を理解するのに、画像が役にたつと考えたからです。そのなかで、視覚に障害を持つ子どもたちが読書に関して孤立しているのでは、という疑問が編集部内に生まれたそうです。そこで、試行錯誤の末、点字とテキストを併記し、画像にはエンボス加工、フロッキング加工、ニス加工などのさまざまなテクスチャーをほどこし、完成したのが、この『さわってたのしむどうぶつずかん』です。

 製作方法の工夫により従来の点字絵本にくらべて軽いこと、画像にさまざまな加工がされているにもかかわらず安価であること、また点字が黒い点でも表現されていることで目の見える人も見えない人もいっしょに楽しめることなど、魅力がいっぱいつまったこの本を、ぜひ日本の読者にも楽しんでいただきたいと思い、翻訳出版を決めました。

 なにしろ点字の本をつくるのははじめてでしたので、改行の仕方や分かちなどで文字の入るスペースが把握しづらく、原稿を作るのに非常に苦労しました。

 元大阪市天王寺動物園園長の長瀬健二郎先生には、伝えるべき内容をきちんと残しながら文章を削ったり、的確な言葉に言いかえたりと、何度も何度もご指導いただきました。

 また、印刷・製本は中国で行ったのですが、サンプルであがってくる点字の高さにムラがあり、何度も修正、確認を繰り返すことになりました。

 苦労も多かったこの本ですが、点字のことなどなにも知らなかった私にとって、勉強になることが多々ありました。特に心に残っているのは、点字データの制作をお願いした日本ライトハウスの奥野さんとの打ち合わせです。出来上がったサンプルを確認していただいているとき、奥野さんが見開きいっぱいにレイアウトされた凹凸のあるヘビの写真をさわりながら「きれいな絵ですね」とおっしゃいました。恥ずかしながら、目の見えない方がそういう感覚をお持ちだとは考え至らず、はっとする思いでした。まさに、奥野さんも私も、視覚障害のあるなしにかかわらず、同じ画像を同じように美しく、そしてダイナミックに感じているのだなあと嬉しく感じた瞬間でした。

 この本を通して、視覚障害のある子どもたちはもちろん、障害のない子にも、点字のおもしろさや、図版を指でなぞる楽しさを感じてほしいと思います。そしてこの本を入り口にして、障害のある方への理解が深まれば嬉しいです。